IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)第10137号「可逆的熱特性を有する複合繊維」事件

名称:「可逆的熱特性を有する複合繊維」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)第 10137 号 判決日:平成 27 年 3 月 10 日
判決:請求認容
平成 14 年改正前特許法 159 条 2 項,50 条本文
キーワード:手続違背
[概要]
原告は,特許出願後の拒絶理由通知に対して,手続補正(「平成24年補正」)を行ったが、拒
絶査定を受けたため,不服審判を請求するとともに,更に,手続補正(「本件補正」)をした。特
許庁は,この補正を却下した上で,拒絶審決を下したため,これに不服の原告が,審決の取り消
しを求めた結果、審決が取り消されたものが本事案である。
[具体的な手続の経緯]
(1)拒絶理由通知:当初請求項1等に新規性・進歩性欠如(理由1及び2)を指摘。
(2)意見書・補正書(平成24年補正):請求項1等を補正+請求項24(独立項)等を追加。
(3)拒絶査定:「備考」欄で、平成24年補正後請求項24,25に新規性・進歩性欠如(引用
文献1に基づく)を指摘し、平成24年補正後請求項26,6,9~12(引用文献2に基づく)
に進歩性欠如(引用文献1に基づく)を指摘し、更に、平成24年補正後請求項6,9~12に
進歩性欠如(引用文献2に基づく)を指摘。「なお」書きで、平成24年補正後請求項1等が新規
事項の追加に該当し、更に、平成24年補正後請求項1等が不明瞭であると指摘。
(4)審判請求・補正書(本件補正):平成24年補正後請求項1について明瞭でない記載の釈明
+限定的減縮を目的とする補正等を実施。
(5)審尋(前置報告)
(6)回答書(補正不可)
(7)審決:本件補正後請求項19が新規事項の追加に該当し、本件補正後請求項1と引用文献
1と同一(新規性欠如)であり、独立特許要件を欠くと判断し、本件補正を却下。更に、平成2
4年補正後請求項1が引用文献1と同一(新規性欠如)であるとして、拒絶審決を下した。
(8)審決取消訴訟:審判における手続違背を認め、請求を認容(拒絶審決取消)した。
[争点]
取消事由1:審判における手続違背(平成14年改正前特許法159条2項、50条本文違反)
[裁判所の判断]
<取消事由1(審判における手続違背について)>
ア(ア) 被告は,①本件拒絶理由通知書においては,「理由1」,すなわち,新規性欠如を拒
絶理由とする請求項として,当初請求項「1,2・・・25」が挙げられていること,②その後,
平成24年補正により・・・平成24年補正後請求項「1,2・・・23」が,「理由1」の対
象となったこと,③本件拒絶理由通知書においては,拒絶理由の対象となる請求項につき,「下
記の請求項に係る発明は,」という,「記」以下の記載に委ねる文言が明記されているのに対し,
本件拒絶査定においては,そのような文言は記載されておらず,本件拒絶理由通知書に記載した
理由によって拒絶したことが記載されていることから,本件拒絶査定により「理由1」に基づい
て拒絶された請求項は,第一義的には,上記②の平成24年補正後請求項「1,2・・・23」
であることが理解できる旨主張する。・・・しかしながら,前述した本件拒絶査定の記載内容に
よれば,本件拒絶査定の理由となる請求項は,「備考」欄に記載されたものとみるのが自然であ
る。・・・そして,前述したとおり,本件拒絶査定中,平成24年補正後請求項1に言及してい
るのは,「なお書き」における新規事項追加及び明瞭性の問題点の指摘のみであり,それ以外に
はない。
加えて,本件拒絶理由通知書において,「理由2」,「引用文献等2」,すなわち,引用文献
2に対して進歩性を欠くことを拒絶理由とする請求項として挙げられている当初請求項のうち,
「7・・・」に対応する平成24年補正後請求項は,「6・・・」であるところ,これらの請求
項は,本件拒絶査定においても,本件拒絶理由通知書と同じく,「理由2」,「引用文献等2」
の対象として明記されており,「なおも,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容
易に発明をすることが出来たものである。」と記載されている。これは,上記請求項については,
平成24年補正を経てもなお,本件拒絶理由通知書記載の拒絶理由が解消されていないことを示
すものである。上記の点に鑑みれば,本件拒絶査定において,「理由1」及び「理由2」のいず
れの対象にも記載されていない平成24年補正後請求項1につき,これに対応する当初請求項1
について本件拒絶理由通知書に記載されていた拒絶理由が,黙示に維持されているものと解する
余地はないものというべきである。
イ(ア) また,被告は,本件拒絶査定には,平成24年補正後本願発明1を更に限定した平成
24年補正後本願発明24につき,新規性を欠く旨が説明されているのであるから,当業者であ
れば,平成24年補正後本願発明1が,依然として,新規性を欠くとの拒絶理由を回避できない
ことは,当然に予測できる旨主張する。
(イ) しかしながら・・・①本件拒絶査定中,平成24年補正後請求項1については,「なお
書き」において新規事項追加及び明瞭性の問題点を指摘されているほかは,一切,言及されてい
ないこと,②他方,本件拒絶理由通知書中,「理由2」,「引用文献等2」の対象とされている
当初請求項のうち「7・・・14」については,これらに対応する平成24年補正後請求項の「6・・・
12」が,本件拒絶査定においても,「理由2」,「引用文献等2」の対象として明記されてい
ること鑑みれば,当業者は,当初請求項1について,本件拒絶理由通知書に記載された拒絶理由
はすべて平成24年補正により解消し,本件拒絶査定において指摘されている新規事項追加及び
明瞭性の問題点を解消すれば,特許査定が得られるものと認識するのが,当然である。
以上に加え,①平成24年補正後請求項24は,平成24年補正後請求項1を含むほかの請求
項を引用することなく,独立の請求項であること,②クレームの文言上,平成24年補正後請求
項24が平成24年補正後請求項1を包含するものとまでは,直ちにいい難いことも併せ考えれ
ば,原告を含む当業者が,本件拒絶査定において平成24年補正後本願発明24が新規性を欠く
旨が説明されていることをもって,平成24年補正後本願発明1についても同様に新規性を欠く
ものと認識することは,考え難い。平成24年補正後本願発明1が,新規性を欠いているのであ
れば,それを拒絶査定で明示すれば足りるのであり,出願人に対し疑義を与えるような記載をす
べきではない。
ウ さらに,被告は,原告が,本件審尋に対し,回答書提出の機会を与えられていたことを指
摘する。しかし・・・回答に際し・・・補正はできない旨が明記・・・この点に鑑みると・・・
平成14年改正前の159条2項,50条本文所定の拒絶理由通知を行わなかったという本件審
判手続の瑕疵を治癒するものでないことは明らかである。
第6 結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由1は理由があるから,本件審決は,取消しを免れない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから認容することと
し,主文のとおり判決する。
以上
コメント
拒絶査定において、拒絶理由通知の指摘内容が省略されていることが散見されるが、どの請求
項に対して、どの拒絶理由が適用されているか十分に精査すべきである。また、拒絶理由に疑義
が生じる場合には、審査官に問い合わせ、できるだけ疑義を解消した上で、対応することが、審
判経済上も望ましいと考える。

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