IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成 26 年(行ケ)第 10270 号「プロバイオティクス構成成分及び甘味剤構成成分を含む組成物」事件
名称:「プロバイオティクス構成成分及び甘味剤構成成分を含む組成物」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)第 10270 号 判決日:平成 27 年 7 月 30 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法 29 条 1 項 3 号
キーワード:一致点・相違点の認定
[概要]
引用された発明が上位概念で構成されている場合、その下位概念に本願発明と重なる構成が含
まれるものであるとしても、本願発明の構成が当然に開示されていることにはならないとして、
審決の一致点・相違点の認定は誤りであると判断された事案。
[主な争点]
補正についての独立特許要件の有無(進歩性の有無)
[特許請求の範囲(本願補正発明)]
【A1】切除及び洗浄されたイヌ科動物又はネコ科動物の胃腸管から単離された株を含み、
【A2】かつビフィドバクテリウム、ラクトバシラス、及びこれらの組み合わせからなる群から
選択される属を含む細菌を含む、【A】プロバイオティク構成成分、及び
【B1】ソルビトール、マンニトール、グルコース、マンノース、フルクトース、及びこれら
の混合物からなる群から選択される単糖類を含む、【B】甘味剤構成成分、
を含む、組成物であって、
【C】前記甘味剤構成成分およびプロバイオティク構成成分は共に混合されてなり、
【D】前記組成物は、実質的にチューインガム基質を有しない、【E】組成物。
[審決で認定された一致点]
(a) ビフィドバクテリウム、ラクトバシラスから選択される属を含む細菌を含む、プロバイオ
ティク構成成分、及び
(b) グルコース、マンノース、フルクトースからなる群から選択される単糖類を含む、甘味剤
構成成分、
を含む、組成物であって、
前記甘味剤構成成分およびプロバイオティク構成成分は共に混合されてなり、
前記組成物は、実質的にチューインガム基質を有しない、組成物。
[審決で認定された相違点]
本願補正発明は、細菌が『切除及び洗浄されたイヌ科動物又はネコ科動物の胃腸管から単離さ
れた株を含』むのに対して、引用発明は、そうではない点。
[本判決で認定された一致点]
【A】プロバイオティク構成成分、及び【F】他の構成成分、を含む、組成物であって、【C】
前記他の構成成分及びプロバイオティク構成成分は共に混合されてなり、【D】前記組成物は、実
質的にチューインガム基質を有しない、【E】組成物。
[本判決で認定された相違点]
<相違点ア>
プロバイオティク構成成分として、本願補正発明は、「切除及び洗浄されたイヌ科動物又はネコ
科動物の胃腸管から単離された株を含み(構成A1)、かつビフィドバクテリウム、ラクトバシラ
ス、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される属を含む細菌を含む(構成A2)」もので
あるのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点イ>
他の構成成分として、本願補正発明は、「ソルビトール、マンニトール、グルコース、マンノー
ス、フルクトース、及びこれらの混合物からなる群から選択される単糖類を含む(構成B1)、甘
味剤構成成分、を含む(構成B)」ものであるのに対し、引用発明は、「スクロース、初乳、プレ
バイオティック」を含むとはされているものの、そのような特定がなされていない点。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
そうすると、相違点アのうち、構成A2の点(相違点ア´)、及び相違点イを相違点と認定せず、
これを一致点と認定した審決の一致点・相違点の判断には、誤りがあり、原告の前記主張には理
由がある。
すなわち、引用された発明が「プロバイオティック」との上位概念で構成されている場合、そ
の下位概念に「ビフィドバクテリウム、ラクトバシラス」が含まれるものであるとしても、「ビフ
ィドバクテリウム、ラクトバシラス」により具体的に構成された発明が当然に開示されているこ
とにはならない。また、本願補正発明の「甘味剤構成成分」と、引用発明の「プレバイオティッ
ク」とが同一成分で重なるからといって、両者を直ちに同一のものととらえることはできない。
・・・引用発明の「プレバイオティック」は、「主として大腸の末端部に対して有益である」と
されているから、少なくとも、大腸の末端部まで到達できるものである必要がある。一方、哺乳
動物において、単糖類が小腸から吸収されることは技術常識である。そうすると、当業者が、引
用発明の「プレバイオティック」として、グルコース、マンノース、フルクトースのような単糖
類を用いていると認識するとは直ちにいえない。そして、刊行物1に列挙された「プレバイオテ
ィック」は、前記のとおり多岐にわたっているから、これらの「プレバイオティック」のいずれ
と「プロバイオティック」との組合せが、引用発明に作用効果を導いたのかは判然とせず、当業
者が、引用発明「プロバイオティック」と「プレバイオティック」は、刊行物1に記載されたも
ののいかなる組合せであってもよいと認識するとはいえない。
・・・特表2005-501268号公報(乙3)・・・は、グルコースやフルクトースを「生
体粒子の生存性又は安定性を維持するのに役立つ」「補助物質」としている記載があるのか判然と
しない。また、特表2006-501281号公報(乙5)は、グルコースやフルクトースを「安
定化成分」として例示しているにすぎない(【請求項13】【0023】)。特表2002-534
113号公報(乙2)の【0126】には、「プレバイオティックのタイプとしては、フルクトー
ス、キシロース、大豆、ガラクトース、グルコースおよびマンノースを含有するものを挙げるこ
とができる。」との記載はあるが、この記載のみから、「プレバイオティック」として、グルコー
ス、マンノース、フルクトースが通常のものであると直ちには認められない。
したがって、上記各刊行物の記載では、未だ、グルコース、マンノース、フルクトースがプレ
バイオティックとして通常であると認めるに不十分であり、被告の上記主張は、採用することが
できない。
[コメント]
刊行物1の実施例1には、乳製品おやつとして、プロバイオティック及びプレバイオティック
を含有する組成が開示されていた。この実施例1では、「プロバイオティック」及び「プレバイオ
ティック」との上位概念による用語が用いられており、その具体的な下位概念の成分は、実施例
以外の明細書中に多数のものが列記されていた。引用発明とされた実施例1の記載だけでは、ど
のような具体的な成分であれば引用発明の作用効果を導き得るのかが不明な場合、当業者は刊行
物1に記載されたもののいかなる両成分の組合せであってもよいと認識するとはいえない、と裁
判所は判断した。本判決の事例のように、上位概念で記載された実施例に着目して引用発明の一
致点・相違点の認定がなされた場合に、反論のポイントとして参考になる。
平成 26 年(行ケ)第 10270 号「プロバイオティクス構成成分及び甘味剤構成成分を含む組成物」事件
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