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平成29年(行ケ)第10130号「白色反射材及びその製造方法」事件

名称:「白色反射材及びその製造方法」事件
特許取消決定取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)第10130号 判決日:平成30年3月29日
判決:決定取消
特許法29条2項、113条2号
キーワード:進歩性、一致点の認定の誤り、相違点の看過
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/649/087649_hanrei.pdf
[概要]
決定では、甲1発明の「シロキサンの被膜が形成された酸化チタン粉末」と、本件訂正発明1の「SiO2で表面処理された酸化チタン粒子」が一致すると認定されたが、本判決では、それらが同一の物とは認められないとして新たな相違点が認定され、当該新たな相違点に係る構成は、甲1発明等に基づき、当業者が容易に想到することができたとはいえないとして、本件訂正発明1の進歩性を否定した決定が取り消された事例。
[事件の経緯]
原告は、特許第5746620号の特許権者である。
本件特許の請求項1~17に係る発明について特許異議申立(異議2016-700009号)があったところ、特許庁は本件特許を取り消すとの決定をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、決定を取り消した。
[本件訂正発明]
【請求項1】
架橋硬化により網目構造のシリコーン樹脂になる未架橋で液状、塑性又は半固体の架橋性ポリシロキサン化合物であるシリコーン樹脂成分又は架橋硬化により網目構造のシリコーンゴムになる未架橋で液状、塑性又は半固体の架橋性ポリシロキサン化合物であるシリコーンゴム成分に、シランカップリング剤、Al2O3、ZrO2、又はSiO2で表面処理されたアナターゼ型又はルチル型の酸化チタン粒子を前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴム100質量部に対し5~400質量部含有して分散した液状、塑性又は半固体の酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物を、
コンプレッション成形、射出成形、トランスファー成形、液状シリコーンゴム射出成形、押し出し成形及びカレンダー成形から選ばれる何れかの方法で架橋硬化して、
又はスクリーン印刷、グラビア印刷、ディスペンサ法、ローラ法、ブレードコート、及びバーコートから選ばれる何れかの塗布方法で塗布した後、架橋硬化して、
前記網目構造中に前記酸化チタン粒子が取り込まれた前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴムのゴム硬度がショアA硬度で30~90又はショアD硬度で5~80である、厚さ2μm~5mmの立体形状、膜状、又は板状の成形体に成形することによって、
150℃で1000時間の熱処理の後での高温経過時反射率と前記熱処理の前の初期反射率とが550nmにおいて90%以上である前記成形体からなる白色反射材を得ることを特徴とする白色反射材の製造方法。
[取消事由](取消事由1以外は判断されていない)
取消事由1:相違点の看過
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『2 取消事由1(相違点の看過)について
(3)本件訂正発明1と甲1発明との対比
ア 決定は、甲1発明の酸化チタン粉末の表面に形成されるシロキサンの被膜は、シロキサン結合(Si-O-Si)を有するSiO2の被膜であるから、甲1発明において、「表面にシロキサンの被膜が形成され」た「酸化チタン粉末」は、本件訂正発明1の「SiO2で表面処理された・・・酸化チタン粒子」に相当するとして、この点を、本件訂正発明1と甲1発明の一致点であると認定した。
これに対し、原告は、甲1発明の酸化チタン粉末の表面に形成される被膜は、有機シロキサンの被膜であって、無機のSiO2被膜ではない旨主張するので、以下、検討する。
・・・(略)・・・
エ 前記認定のとおり、本件訂正発明1の「SiO2で表面処理された・・・酸化チタン粒子」とは、文言上、「酸化チタン粒子」が、「SiO2(シリカ)」で表面処理されているものであることは明らかである。
これに対し、甲1文献には、酸化チタン粉末の表面処理のいずれの方法によっても、甲1発明の酸化チタン粉末の表面にシロキサンの被膜が形成されたことが記載されていることが認められるものの、甲1文献の上記記載は、甲1発明の酸化チタン粉末の表面に「Si-O-Si結合」を含有する被膜が形成されていることを示すにとどまるものであって、「SiO2(シリカ)」の被膜が形成されていることを推認させるものではない(前記認定のとおり、シロキサンは、Si-O-Si結合を含むものの総称であって、SiO2(シリカ)とは化学物質として区別されるものである。)。また、その他、甲1発明の酸化チタン粉末の表面に「SiO2(シリカ)」が生成されていることを認めるに足りる証拠はない。
さらに、甲1文献には、テトラアルコキシシラン及び/又はテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物について反応すべきものが全て反応したことについては、記載も示唆もされていないのであるから、この点においても、甲1発明の酸化チタン粉末の表面に「SiO2(シリカ)」が生成されていると認めることはできない。
したがって、甲1発明において、酸化チタン粉末の表面に、「SiO2(シリカ)」が生成されているとは認めることができず、甲1発明の酸化チタン粉末が「SiO2(シリカ)」で表面処理されているということはできない。
(4)被告の主張について
ア 被告は、甲1文献の「酸化チタン粉末の表面にシロキサンの被膜」が形成されるとは、シロキサン結合(Si-O-Si)を有する構造が、酸素原子を介して、酸化チタン表面に結合することであり(乙1、2)、シロキサン結合(Si-O-Si)を有する構造が、酸素原子を介して、酸化チタン表面に結合するには、膜となる分子がOH基を有する必要があるから、甲1文献に明記はないけれども、甲1発明に係るテトラエトキシシランについても、少なくともシロキサン被膜が形成される時点までに、部分的に加水分解されて(すなわち、「完全に」加水分解されていなくても)、OH基となっている部分を備えていることは明らかであり、被処理面にはSi-O-Si結合からなる「酸化シリコンの単分子膜」が形成されるなどと主張する。
しかしながら、甲1文献には、甲1発明において、酸化チタン粉末の表面にシロキサンの被膜が形成されたことが記載されているにとどまるものであり、テトラアルコキシシラン及び/又はテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物について反応すべきものが全て反応したものであるとの記載もなく、示唆もされていないから、甲1発明において、酸化チタン粉末の表面に、「SiO2(シリカ)」が生成されていると認めることができないことは前記認定のとおりである。
また、被告が主張するように、甲1発明において、少なくともシロキサン被膜が形成される時点までに、部分的に加水分解されて、被処理面にSi-O-Si結合からなる「酸化シリコンの単分子膜」が形成されるとしても、被処理面のSi-O-Si結合からなる「酸化シリコンの単分子膜」が「SiO2(シリカ)」であることを示す証拠はなく、そのような技術常識を認めるに足りる証拠もない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、本件訂正発明における酸化チタンのSiO2などによる表面処理は、光触媒作用を抑制できる程度のものと解するのが相当であるのに対し、甲1発明の表面処理により形成された、酸化チタン粉末表面の「シロキサンの被膜」も、酸化チタンの光触媒作用を抑制するものであり、本件訂正発明1に係る、酸化チタンにされた「SiO2などで」の「表面処理」と同等の機能を備えるものといえるから、甲1発明に係る酸化チタン粉末の表面処理においては、本件訂正発明1に係るSiO2と同等のSiO2が形成されているといえる旨主張する。
しかしながら、甲1発明の「シロキサンの被膜」については、必ずしも、酸化チタンの光触媒作用を抑制するものということはできない(甲1文献にその旨の記載はない。)。仮に、甲1発明の酸化チタン粉末の表面に形成された「シロキサン」被膜が、SiO2の被膜と同等の機能を備えるものであったとしても、両者は化学物質として区別されるものであり、その構成が異なるものであるから、両者を同一の物とは認められない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(5)以上によれば、甲1発明の酸化チタン粉末の表面に形成されるシロキサンの被膜は、SiO2の被膜であるとは認められないから、甲1発明において、「表面にシロキサンの被膜が形成され」た「酸化チタン粉末」は、本件訂正発明1の「SiO2で表面処理された・・・酸化チタン粒子」に相当するということはできない。
したがって、本件訂正発明1と甲1発明とは、相違点1-1ないし1-5のほか、上記の点でも相違するものと認められる。
(6)そして、上記の酸化チタン粉末の表面処理に関する相違点に係る本件訂正発明1の構成は、甲1文献、その他の周知例のいずれにも記載されていないし、示唆もされていないから、これらに基づいては、直ちに、当業者が容易に想到することができたということはできない。
決定は、本件訂正発明1と甲1発明との一致点の認定を誤り、相違点を看過したものであって、決定による上記相違点の看過が、その結論に影響を及ぼすことは明らかである。
したがって、「SiO2で表面処理されたアナターゼ型又はルチル型の酸化チタン粉末」である点を、本件訂正発明1と甲1発明の一致点であるとした決定の認定判断には誤りがあり、決定の結論に影響を及ぼすものであるから、取消事由1は理由がある。』
[コメント]
本判決では、特許異議申立の決定の際に一致点と認定された「SiO2で表面処理された・・・酸化チタン粒子」に関して、厳格に判断し、甲1発明のように、有機基を含む恐れのあるシロキサン被膜を無機質のシリカ(SiO2)の被膜とは認めなかった。
また、被告の主張に対しても、甲1発明等における本件訂正発明への示唆の有無や、証拠不足を指摘している。
もし、特許異議申立や無効審判を請求するに際しては、上記のような一致点の認定に争いのおそれが予想できるような場合には、予め実験などを行い、本件発明と引用発明とが同様の効果を奏することを証明するなどして、証拠の充実を図るのが好ましいと考える。
以上
(担当弁理士:西﨑 嘉一)
 

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