IP case studies判例研究

平成30年(行ケ)第10109号「ゲーム制御方法、サーバ装置及びプログラム」事件

名称:「ゲーム制御方法、サーバ装置及びプログラム」事件
特許取消決定取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成30年(行ケ)第10109号 判決日:平成31年3月26日
判決:決定取消
特許法29条1項3号、29条2項
キーワード:本件発明の認定、課題の参酌
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/574/088574_hanrei.pdf
[概要]
本件特許権に係る明細書に記載された解決しようとする課題を参酌すれば、本件発明の構成要件の意味が限定的に解釈され、当該解釈からすれば、本件発明は、引用発明等に基づいて、当業者が容易に発明し得たということができないとして、本件発明の進歩性を否定した決定が取り消された事例。
[事件の経緯]
原告は、特許第6043844号の特許権者である。
当該特許について、特許異議の申立て(異議2017-700609号)がされ、原告は、訂正請求を請求したところ、被告は、当該特許を取り消したため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、決定を取り消した。
[本件発明]
以下、請求項1のみ転載する。
【請求項1】
A 各プレイヤがクライアント装置を介して操作するキャラクタを構成員とするグループ同士の対戦ゲームを制御するためのゲーム制御方法であって、
B 時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して、互いに隣接する期間における前記対戦ゲームの進行を制御する対戦条件が異なるように、前記複数の期間の各期間の開始前に、前記対戦条件を設定するステップと、
C 設定された前記対戦条件に基づいて、前記対戦ゲームを進行するステップと、を含み、
D 前記複数の期間の各期間内において前記対戦条件は変化しない、
E ゲーム制御方法。
[決定の理由の要旨]
本件決定は、対戦ゲームを進行するステップにおいて、本件発明では「設定された対戦条件に基づいて」対戦ゲームを進行するのに対して、引用発明1ではその点につき明らかでない点が相違点であると認定しつつも、引用発明1のゲームの内容を考慮すれば実質的には相違するものではない。
また、仮に、本件発明1と引用発明1とが相違するものであるとしても、引用発明1において、本件発明1の相違点1に係る発明特定事項とすることは当業者が適宜なし得ることであるから、本件発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
さらに、引用発明4の各構成要素は、本件発明1の各構成要件にそれぞれ相当し、引用発明1及び引用発明4はともに対戦ゲームに係るものであって技術分野が共通しており、対戦ゲームにおいて対戦条件を設定するという共通の作用・機能を有するから、本件発明1は引用発明1及び引用発明4に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。
として、本件発明1は新規性及び進歩性を有しないとして、本件特許を取り消した。
※本件発明2~8についての記載は省略する。
[取消事由]
1.引用発明1の認定の誤り、及びそれによる相違点の看過(取消事由1)
2.相違点の認定の誤り(取消事由2)
※取消事由2についてのみ記載する。
[原告の主張]
本件発明1の「対戦条件」とは、「①対戦ゲームの進行を制御し、②互いに隣接する期間において異なるように設定され、③各期間の開始前に設定され、かつ、④各期間内において変化しない」ものである。そして、後記2で主張する理由と同様の理由により、本件発明1と引用発明1’との間には、「本件発明1の対戦条件は、①対戦ゲームの進行を制御し、②互いに隣
接する期間において異なるように設定され、③各期間の開始前に設定され、かつ、④各期間内において変化しないのに対し、引用発明1’の対戦条件はそのようになっていない点」という相違点が存在する。
なお、以下では、本件発明1の「対戦条件」に対応するのは、「バトル勝利数に応じて異なるバトル勝利数報酬を付与すること(すなわち、バトル勝利数とバトル勝利数報酬との対応関係)」であることを前提として主張するが、「対戦条件」を「バトルに勝利した際に付与されるバトル勝利数報酬」であることを前提としても、本件発明1と引用発明1との間の相違点は「本件発明1の対戦条件は、①対戦ゲームの進行を制御し、②互いに隣接する期間において異なるように設定され、③各期間の開始前に設定され、かつ、④各期間内において変化しないのに対し、引用発明1の対戦条件はそのようになっていない点」と認定されるべきである。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(1) 本件発明に係る請求項1の「時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して、互いに隣接する期間における前記対戦ゲームの進行を制御する対戦条件が異なるように、前記複数の期間の各期間の開始前に、前記対戦条件を設定する」、「前記複数の期間の各期間内において前記対戦条件は変化しない」との構成は、時間の経過に沿って分割された複数の期間(以下「最小単位期間」という。)の対戦条件が、隣接する最小単位期間の対戦条件と異なるように、同対戦条件を各最小単位期間の開始前に設定し、同対戦条件は進行を制御し、各最小単位期間内で変化しないというものである。したがって、本件発明1の「対戦条件を設定する」というためは、①隣接する最小単位期間の対戦条件が異なるものとなるように設定すること(以下「本件構成①」という。)、②同設定を、各最小単位期間の開始前に行うこと、③同対戦条件は、対戦ゲームの進行を制御するものであること、④同対戦条件は各最小単位期間内において変化しないことが必要である。
(2) 引用発明1が本件構成①を具備しているかについて
ア 本件構成①の意味
(ア) 前記1で認定した本件明細書の記載からすると、・・・(略)・・・本件発明は、同課題を解決するために、一つの時間枠の対戦を複数の期間に分割し、その分割された期間のうち隣接する期間における対戦条件を異なるものとなるように設定するという構成を採用したものと認められる。
このように、ゲームの前半における参加率を増加させようとの本件発明1の目的を達成させるために、一つの対戦を複数の期間に分割して、各期間の対戦条件を異なるものに設定したことからすると、同対戦条件とは、これからゲームに参加しようとするプレイヤ一般に対して向けられた一般的な対戦条件を意味し、個々のプレイヤを特定した上で設定した対戦条件を含まないと解するのが相当である。
・・・(略)・・・、仮に、前半の最小単位期間の対戦条件及び中盤の最小単位期間の対戦条件をともに「対戦能力の下位5名の攻撃値が30%アップすること」とした場合でも、ゲームに参加する具体的なプレイヤに着目すれば、前半における「対戦能力が下位5名」と中盤における「対戦能力が下位5名」とは異なることもあるから、攻撃値が30%アップすることになる対戦能力が下位の5名のプレイヤを具体的に特定し、対戦条件を、そのような特定のプレイヤの攻撃力を30%アップするというものと解すれば、隣接する最小単位期間の対戦条件も異なることになるが、このような対戦条件の設定の方法では、前半における参加率の上昇を図るという本件発明1の目的を達成することができないから、本件発明1は、そのような対戦条件の設定は想定していないというべきである。
そして、本件発明1の請求項は、・・・(略)・・・対戦条件の異同を、ゲームに参加する個々のプレイヤの具体的な能力や属性等を考慮して判断することを規定する文言はないことからすると、上記の解釈は、上記請求項の文言からも、自然な解釈である。
(イ) なお、本件明細書の段落【0043】には、「対戦条件にはその他にも、キャラクタを操作するプレイヤに報酬を付与することや、分割された時間の前半において対戦結果を集計し後続の時間において反映させるなど、対戦において何らかの条件が付されることが含まれる。」と記載されているが、この「プレイヤに前半における対戦結果を反映した報酬を付与すること」という対戦条件は、プレイヤを具体的に特定した対戦条件を意味するのではなく、仮に、この対戦条件を、二つの隣接する最小単位期間において連続して設定した場合は、プレイヤごとに見ると、報酬が異なり得るとしても、対戦条件を異なるように設定したことにはならず、本件構成①を具備しないことになる。
また、本件明細書の段落【0050】、【0054】~【0057】には、対戦条件の例として、最小単位期間のうち、先行する最小単位期間における参戦状況や対戦結果を集計し、集計した結果を後の最小単位期間における対戦条件に反映することが挙げられ、さらに、その具体例として、後半戦の対戦条件として、前半戦におけるキャラクタによる攻撃回数などを集計した結果に基づいて所定の報酬を付与することが挙げられているが、この「前半戦におけるキャラクタによる攻撃回数などを集計した結果に基づいて所定の報酬を付与すること」という対戦条件も、プレイヤを具体的に特定した対戦条件を意味するのではなく、仮に、この対戦条件を、二つの隣接する最小単位期間において連続して設定すれば、プレイヤごとに報酬の付与が異なり得るとしても、本件構成①を具備しないことになる。
イ 引用発明1が本件構成①を具備しているかについて
・・・(略)・・・
a 「バトルで勝利した回数に応じて回復薬や海原ドリンク等の異なる報酬が、条件を達成したバトル後に付与されること」は、最小単位期間ごとに変化するものではなく、すべての最小単位期間において同一であるから、これを対戦条件と解すると、対戦条件を隣接する最小単位期間で異なるように設定していることにはならない。
したがって、引用発明1の構成は本件構成①を具備していない。
b 被告は、引用発明1の「バトルで勝利した回数に応じて回復薬や海原ドリンク等の異なる報酬が、条件を達成したバトル後に付与されること」という対戦条件は、・・・(略)・・・互いに隣接する期間に対して、勝利したら異なる報酬が付与されるという、異なる対戦条件が設定される場合があるから、引用発明1は本件構成①を充足する旨主張する。
・・・(略)・・・
しかし、被告が主張する上記の対戦条件は、ゲームに参加するプレイヤを具体的に特定することを前提としたものであるが、前記アのとおり、本件構成①の「対戦条件」には、そのような対戦条件は含まれないのであるから、被告の上記主張は理由がない。
(イ) なお、引用発明1のうち、プレイヤに付与されるバトル勝利数報酬を、本件発明1の「対戦条件」に対応すると解した場合についても検討するに、引用発明1においては、バトル勝利数報酬は、勝利数に応じて異なる内容のものが付与されるのであり、各試合ごとに異なる内容のものが付与されるのではないから、プレイヤが付与されるバトル勝利数報酬を本件発明1の「対戦条件」に対応するものと解した場合は、隣接する最小単位期間の対戦条件を異なるものとなるように設定するということはできず、引用発明1は、本件構成①を具備しない。
この点、個々のプレイヤに付与されるバトル勝利数報酬は、同プレイヤのこれまでの勝利数に応じて異なるから、個々のプレイヤの観点から見ると、試合ごとにバトル勝利数報酬の内容が異なることになるが、このようなバトル勝利数報酬を対戦条件とした場合は、この対戦条件は、個々のプレイヤを特定して設定したものとなり、前記アのとおり、本件構成①の対戦条件には含まれない。したがって、引用発明1において、個々の特定のプレイヤに付与されるバトル勝利数報酬を本件発明1の「対戦条件」に対応するものと解しても、引用発明1は、本件構成①を具備しない。
(3)ア 以上のとおりであり、引用発明1は本件発明1の構成である本件構成①を具備しないから、引用発明1は、本件発明1と、少なくとも、この点で相違し、したがって、本件発明1が引用発明1と同一であるということはできない。
イ また、本件発明1と引用発明1との相違点である本件構成①が技術常識であるとも認められないから、本件発明1は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明し得たということもできない。
ウ さらに、甲4文献には、引用発明4が記載されているものと認められる(甲4)が、引用発明4は、イベントボーナスが日ごと又は週ごとに変更するものであり、最小単位期間ごとに変更するものではないから、本件構成①を具備しておらず、したがって、引用発明1に引用発明4を適用しても本件発明1には到らない。
したがって、引用発明1及び引用発明4に基づいて本件発明1をすることができたということもできない。』
[コメント]
原告は、被告が主張する引用発明において「対戦条件」と解されるものは、本件発明の「対戦条件」の要件を充足しないとして、取消決定の取り消しを求めていたが、裁判所は、本件発明の「対戦条件」の要件のうち、一つの要件について明細書全体から参酌される具体的な意味を示し、その意味において引用発明の構成と対比することによって、本件発明が進歩性を有すると結論付けている。
本件のように、明細書の記載を参酌して、特定の構成要件の意味について具体的な解釈が示される場合があることを考慮すれば、明細書の作成において、特定の構成要件が不必要に限定解釈されないように、発明の内容を十分理解した上で、解決しようとする課題や発明の効果を適切に設定して記載する必要があろう。
なお、本件においては、結論としては、特許が維持されたものの、本件発明の認定としては、特許権者の解釈よりも狭く認定されたのではないだろうか。
以上
(担当弁理士:植田 亨)

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