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審決取消訴訟等
平成30年(行ケ)第10125号「β-アミロイドの対外的減少のための新規組成物及びその製造方法」事件
名称:「β-アミロイドの対外的減少のための新規組成物及びその製造方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成30年(行ケ)第10125号 判決日:令和元年6月13日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:進歩性
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/779/088779_hanrei.pdf
[概要]
本願発明と引用発明との相違点である捕捉結合剤としての四量体Aデトックスゲルは、引用文献8に、四量体AデトックスゲルはAβ-42(Aβはβアミロイドに同じ)に対して最も優れた結合能を有していること等が記載されていることから、引用発明のβアミロイドを捕捉する成分に、上記四量体Aデトックスゲルを適用することは容易であるとして、進歩性を否定した審決が維持された事例。
[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2015-508893号)に係る拒絶査定不服審判(不服2016-16991号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。
[本件発明]
【請求項1】
患者のβアミロイドレベルの誘導に関連する病的症状の治療用の改良された透析液製剤を製造する方法であって、
該方法は、(a)捕捉結合剤としての以下の構造を有する四量体ペプチド及びキャリアを含む組成物を調製する工程と、
(b)前記組成物を透析緩衝液と混合する工程とを含み、
前記キャリアは、ポリ(エチレングリコール)架橋キャリアゲルである方法。
[審決]
本願発明と引用発明との対比
一致点:患者のβアミロイドレベルの誘導に関連する病的症状の治療用の改良された透析液製剤を製造する方法であって、該方法は、βアミロイドを捕捉する成分を透析緩衝液と混合する工程を含む、方法。
相違点1:「βアミロイドを捕捉する成分」が、本願発明においては、特定の構造を有する四量体ペプチド(以下、「四量体ペプチドA」という。)及び「ポリ(エチレングリコール)架橋キャリアゲル」を含む「組成物」であるのに対し、引用発明においては、「アミロイドβ結合化合物」である点。
相違点2:本願発明においては、上記四量体ペプチドAと架橋キャリアゲルを含む組成物を「調製する工程」が含まれていることが特定されているのに対し、引用発明においてはそのことが特定されていない点。
相違点についての判断
引用文献8には、四量体Aデトックスゲルが、Aβ-42に対して最も優れた結合能を有しており、その結合が不可逆的であることも示されているのであるから、上記のような結合部位及び技術思想の共通性にも着目しつつ、このような優れた結合能を期待して、引用発明において、上記四量体Aデトックスゲルを調製し、「アミロイドβ結合化合物」として用いることは、当業者が容易に想到し得た事項と認められる。
[取消事由]
取消事由1 引用発明の認定の誤り
取消事由2 引用発明と本願発明との一致点、相違点の認定の誤り
取消事由3 引用発明に基づく本願発明の容易想到性の判断の誤り
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『3 取消事由1、2について
(1)引用発明の認定
・・・(略)・・・
したがって、引用文献1に記載された引用発明は、以下のとおりであると認められる。
「アミロイド疾患の治療用の透析液を製造する方法であって、該方法は、アミロイドβ結合化合物を透析槽に添加する工程を含む、方法」
(2)一致点及び相違点
・・・(略)・・・
以上より、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のa、bのとおりとなる。
a 一致点
「患者のβアミロイドレベルの誘導に関連する病的症状の治療用の改良された透析液製剤を製造する方法であって、該方法は、βアミロイドを捕捉する成分を透析緩衝液と混合する工程を含む、方法。」
b 相違点
(a)相違点1
「βアミロイドを捕捉する成分」が、本願発明においては、四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール架橋キャリアゲルを含む組成物であるのに対し、引用発明においては、「アミロイドβ結合化合物」である点。
(b)相違点2
本願発明においては、上記四量体ペプチドAと架橋キャリアゲルを含む組成物を「調製する工程」が含まれていることが特定されているのに対し、引用発明においてはそのことが特定されていない点。
イ 原告の主張について
(ア)原告は、引用文献1には、透析液、透析液製剤の製造方法について記載されていない旨主張する。
しかし、既に判示したとおり、引用文献1には、透析液及び透析液製剤を製造することが記載されているというべきである。
・・・(略)・・・
(ウ) 原告は、引用文献1の実施例4は、実際には実施されていない仮説にすぎないから、同実施例から引用発明を認定することはできない旨主張する。
しかし、当業者は、前記2(1)で認定した引用文献1の記載から、具体的な技術思想として引用発明を抽出することができることは、既に判示したとおりである。そして、このことは、原告の指摘する引用文献1の段落が現在形で記載されていることによって左右されないというべきである。
・・・(略)・・・また、費用が高額であるということから直ちに具体的な技術思想を抽出することができないということにはならない。
したがって、原告の上記主張は理由がない。
・・・(略)・・・
(カ)原告は、前記の相違点1を、「βアミロイドを捕捉する成分」が、本願発明においては、四量体ペプチドAを含む組成物である点とポリエチレングリコール架橋キャリアゲルを含む組成物である点を別の相違点として認定すべきであると主張する。
しかし、本願明細書等の記載からすると、四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール架橋キャリアゲルは、「βアミロイドを捕捉する成分」として一体不可分に作用するものと理解できるから、「βアミロイドを捕捉する成分」が、四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール架橋キャリアゲルであるか否かを一つの相違点とすることが、相違点の設定方法としては相当である。』
『4 取消事由3について
(1)ア 前記2(2)のとおり、引用文献8には、・・・(略)・・・。そして、上記のデトックスゲルは、四量体ペプチドAをポリエチレングリコールにより架橋することによって調製されたデトックスゲルであるから、本願発明における四量体ペプチドA及びポリ(エチレングリコール)架橋キャリアゲルを含む組成物に相当する。
したがって、引用文献8には、相違点1及び2に係る構成が記載されている。
イ そして、引用発明及び引用文献8に記載された技術は、いずれも、Aβ結合剤をアルツハイマー病等の患者の血液中のAβに結合させることによって、Aβを除去し、アルツハイマー病等の疾患を治療するというものであり、技術分野は同一であること、・・・(略)・・・ポリエチレングリコールのような高分子を用いてもよいことが記載されている(段落[0056])ことからすると、引用発明に引用文献8に記載された技術を適用する動機付けがあると認められる。
・・・(略)・・・
ウ したがって、引用発明に引用文献8に記載された技術を適用して、引用発明におけるアミロイドβ結合化合物を四量体ペプチドA及びポリエチレングリコール架橋キャリアゲルを含む組成物とし、かつ、同組成物を調整する工程を含ませることは、当業者にとって、容易に想到できると認められる。
(2)顕著な効果について
原告は、本願発明は、①β-アミロイドへの特定の結合作用を提供する、②β-アミロイドの除去の物理的特性に依存せず、代わりに、血液の構成要素からβ-アミロイドを捕捉する結合剤を用いるだけである、③組織的に高い結合能力を形成するプロセスを提供する、④体内に外的物質を導入することを含まず、それにより逆のリスク事象に移行し得る潜在的免疫システム反応を除去したプロセスを提供するという顕著な効果を有する旨主張する。
しかし、上記④については、血液透析によりAβの除去を行う引用発明が当然備える効果であり、上記①~③については、引用発明において、「Aβ結合化合物」として、結合能の高い化合物を採用することよって獲得される効果にすぎないから、原告の上記主張は理由がない。
(3)原告の主張について
・・・(略)・・・
イ 原告は、引用文献1に膨大な数のアミロイドβ結合化合物が記載されている中で、引用文献1に記載のない、四量体ペプチドAをわざわざ適用することには阻害要因があると主張するが、引用文献1に記載されたAβ結合化合物の数が膨大であることによって、Aβ結合化合物として、引用文献8に明記されている四量体ペプチドAを用いることが阻害されるということはできない。
ウ 原告は、引用発明は、一般的な透析法によりアミロイドβを除去する発明であるのに対して、引用文献8に記載された技術は、アミロイドβ化合物と結合し得る物質(医薬製剤)を生体内に存置するものであるから、技術分野が異なり、また、阻害要因もあると主張する。
しかし、前記のとおり、引用発明及び引用文献8に記載された技術は、いずれも、Aβ結合剤をアルツハイマー病の患者等の血液中のAβに結合させることによって、Aβを除去するというものであり、技術分野は同一である。そして、生体内での使用が想定されているAβ結合化合物を血液透析で使用することができない理由があるとは認められないから、阻害要因も認められない。
この点について、原告は、体内で使用する物質を血液透析で使用することに阻害要因があることの理由について、透析法は、体内使用における患者の負担の軽減のために採用するものである旨の主張をするが、体内使用における患者の負担の軽減のために透析法を採用するということが、体内での使用が想定されているAβ結合化合物を血液透析で使用することの阻害事由となるとは認められず、むしろ、体内での使用について安全性が確認されている物質であれば、血液透析でも使用しようと考えるのが通常であるといえる。
したがって、原告の上記主張は理由がない。』
[コメント]
原告は、引用発明の認定の誤り、引用発明と本願発明との一致点、相違点の認定の誤り、引用発明に基づく本願発明の容易想到性の判断の誤り(阻害要因、顕著な効果)を種々主張しているが有効な反論ではなく、判決では全て理由がないとされている。妥当な判断であると思われる。
なお、当業者が、引用文献1の記載から、具体的な技術思想として引用発明を抽出することができることは、引用文献1の実施例が現在形で記載されていることや、その実施例に係る費用が高額であることから直ちに具体的な技術思想を抽出することができないということにはならないとの判断は、引用発明を判断するに際して恣意的な判断を避けるための参考になる。
以上
(担当弁理士:光吉 利之)
平成30年(行ケ)第10125号「β-アミロイドの対外的減少のための新規組成物及びその製造方法」事件
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