IP case studies判例研究

令和4年(ネ)第10107号「マイクロコンタクタプローブと電気プローブユニット」事件

名称:「マイクロコンタクタプローブと電気プローブユニット」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:令和4年(ネ)第10107号 判決日:令和5年6月1日
判決:控訴棄却
関連条文:特許法70条1項及び2項
キーワード:構成要件充足性、均等侵害
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/119/092119_hanrei.pdf

[概要]
特許請求の範囲における「摺動導通部」及び「密巻き部」について、明細書の記載に基づいて解釈した結果、被控訴人製品は構成要件を充足しないと判断した原判決が維持された事例。

[事件の経緯]
控訴人は、特許第4889183号(本件特許権)の特許権者である。
原判決は、被控訴人製品はいずれも本件発明の技術的範囲に属さないとして、控訴人の請求を棄却し、控訴人が控訴した。
裁判所は、原判決は相当であるとして、本件控訴を棄却した。

[本件発明](請求項1のみ抜粋)
【請求項1】
1A 支持孔が形成された絶縁体と、
1B 前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリと、を備え、
(1B)  前記導電アッセンブリは、
1C   検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジャと、
1D   リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャと、
1E   前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、を備え、
1F  前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を有し、
1G  前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し、
1H  前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの他方に固定され、
1I  前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される
1J マイクロコンタクタプローブ。

[争点]
争点1-1 被控訴人製品の「コイルばねは、摺動導通部」を有する「筒状の密巻き部を有し、」「前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し」ているか(構成要件1F,1G,21E,21F)
争点1-4 均等侵害が成立するか

[裁判所の判断]
『第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原審と同様に、控訴人の請求にはいずれも理由がないものと判断する。
・・・(略)・・・
(1)争点1-1(被控訴人製品の「コイルばねは、摺動導通部」を有する「筒状の密巻き部を有し、」「前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し」ているか(構成要件1F、1G、21E、21F))について
ア 「摺動導通部」について
(ア)控訴人は、「摺動」は一瞬も離れずに接触した状態での動きなのか、瞬間的には離れ得る動きなのかといったことまで意味するものではなく、また、「導通」するタイミングが「プランジャ」と「検査対象」とが接触しストロークが静止した時点であることから、「摺動導通部」を、「プランジャ」との「摺動」動作中(ソケットベースにセットされて検査前の待機状態になってからフルストロークに至るまでの間)連続して電気的に「導通」する部材であると解釈することは誤りであると主張する。
・・・(略)・・・
(ウ)控訴人は、「摺動」について、一瞬も離れずに接触した状態で動くことまで意味するものではないと主張するが、本件発明においては、摺動導通部が、「摺動」して停止した位置において、一対のプランジャの一方と接触して「導通可能」である必要があるのであり、検査対象の大きさや形状に応じて、待機状態からフルストロークに至るまでの任意の高さにおいて、摺動導通部がその動き(ストローク)を止め、電流を流して導通することを予定しているから、「摺動導通部」が、「導通可能」かつ「摺動可能」であるといえるには、摺動導通部が、待機状態にある位置からフルストロークに至るまでの間、連続して、一対のプランジャの一方と接触して電気的に導通可能である必要がある。そうすると、本件発明における「摺動」は、連続して接触しながら擦り動くことを意味すると解するのが相当である。
・・・(略)・・・
イ 「密巻き部」について
前記アのとおり、本件発明は、少なくとも、待機状態(ストローク開始前の状態)及び使用時(現実に導通している状態)において特許請求の範囲により特定された構成を有するものと認めるのが相当であるから、「密巻き部」は、「待機状態」においても密に巻かれている部分をいうと解される。
控訴人は、コイルばねの密巻きの部分が、フリー状態でも密巻きであったのか、フリー状態では密巻きではなかったがストローク開始後検査前に密巻きになったのかといった事項は本件発明の作用効果に影響しないとして、検査時(使用時)に密巻きであれば足りると主張するが、控訴人の主張を前提とすると、ストロークの程度によって、コイルばね中のどの範囲の部分が密巻きになるか、また、密巻きになった部分が導通経路になるか否かが定まることとなり、密巻き部が導通経路とはならない場合も生じ得ることになって、コイルばねのインダクタンス及び抵抗に影響し得ることになるから、控訴人の指摘する事項が本件発明の作用効果に影響しないということはできない。したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 「密巻き部」及び「摺動導通部」の意義について
以上を総合すると、・・・(略)・・・本件発明において、「密巻き部」は、圧縮圧力を加える前(ストローク開始前)から軸線方向において接触状態にある部分をいい、本件アッセンブリのプランジャの一方が「密巻き部」の「摺動導通部」に「摺動可能に接触する」とは、待機状態(ストローク開始前の状態)からフルストロークに至るまでの間、連続して、コイルばねが圧縮圧力を加える前から軸線方向において接触状態であった部位と第1又は第2のプランジャ(固定導通部が固定されているプランジャではない方)に接触して導通可能になっていることをいうものと解するのが相当である。
(2)被控訴人製品の充足性について
控訴人は、当審において、動画(甲86)及び動画撮影報告書(甲87)を提出したが、これらの動画によっても、プローブホルダーに被控訴人製品をセットし、ストロークを開始する前の状態(前記(1)ウの「待機状態」に相当する。)において、コイルばねの密巻き部が、第2のプランジャに接触していないことが認められるから、被控訴人製品が、「摺動導通部」を有すると認めることはできない。そうすると、被控訴人製品は、本件発明の構成要件1F、1G、21E、21Fを充足しない。
・・・(略)・・・
したがって、その余の点を検討するまでもなく、被控訴人製品は、本件発明の技術的範囲に属しない。
(3)争点1-4(均等侵害が成立するか)について
ア 前記(2)のとおり、被控訴人製品は「摺動導通部」を有しない点において、本件発明と異なる。
・・・(略)・・・本件発明は、一対のプランジャをコイルばねの密巻き部分に接触させて導通を確保するという本件先行発明における、2つの摺動導通部が形成されることによる抵抗の分散が検査の精度を狭めるという課題を解決するために、摺動導通部の数を減らし、検査精度を向上可能とするというものであり、プランジャと接触して導通を確保する摺動導通部を有することは、本件発明の本質的部分である。
そうすると、被控訴人製品と本件発明の構成中の異なる部分(摺動導通部の存否)は、本件発明の本質的部分に当たる。
イ 控訴人は、「密巻き部」に関する本件発明と被控訴人製品の相違点は、「本件発明では「フリー状態で密巻きであった部分」が導通経路となっているところ、被控訴人製品では「フリー状態で密巻きであった部分」が導通経路となっているかが定かではなく、「ストローク開始後検査前に密巻きになった部分」が導通経路となっている可能性がある点」であり、被控訴人製品について均等侵害が成立すると主張する。しかしながら、・・・(略)・・・ストローク開始後検査前に密巻きになった部分が導通経路となっていることを認めるに足りる証拠がなく、・・・(略)・・・控訴人の「密巻き部」に関する均等の主張はその前提を欠く。
ウ したがって、その余の点につき検討するまでもなく、被控訴人製品について、本件発明の均等侵害は成立しない。
3 結論
以上の次第で、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却した原判決は相当であり、本件控訴には理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。』

[コメント]
本事件における侵害の成否の主な争点は、本件発明の構成要件1F及び1Gにおける「密巻き部」が有する「摺動導通部」の解釈である。
控訴人は、「摺動」について、一瞬も離れずに接触した状態で動くことまで意味するものではないと主張した。しかし、本件発明においてプランジャが、待機状態からフルストロークに至るまでの任意の高さで電流を流して導通することに鑑みると、「摺動導通部」がストローク範囲の間で連続して導通可能であることを意味するとの裁判所の解釈は妥当と考える。
均等侵害について、裁判所は、被控訴人製品と本件発明との異なる部分は、「摺動導通部」を有しない点であり、この点は本件発明の本質的部分であるとして、均等侵害は成立しないと判断した。本件発明の主旨が、従来技術における、2つの摺動導通部が形成されることによる抵抗の分散が検査の精度を狭めるという課題を解決するために、摺動導通部の数を減らして検査精度を向上可能とする点にあることを認定したうえで、「摺動導通部」を有することは本件発明の本質的部分であるとした裁判所の判断は妥当と考える。

以上
(担当弁理士:廣田 武士)

令和4年(ネ)第10107号「マイクロコンタクタプローブと電気プローブユニット」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ