IP case studies判例研究

令和4年(ネ)第10046号「コメント配信システム」事件

名称:「コメント配信システム」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:令和4年(ネ)第10046号 判決日:令和5年5月26日
判決:原判決一部変更、一部控訴棄却
特許法2条3項1号
キーワード:実施、生産、ネットワーク関連発明、属地主義、域外適用
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/146/092146_hanrei.pdf

[概要]
サーバと、これとネットワークを介して接続された端末装置とを備えるシステムの発明に関して、日本国外に設置されたサーバと日本国内に存在するユーザ端末とを備えたシステムを新たに作り出す行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当するとし、侵害を否定した原判決の一部を変更した事例。

[本件発明1]
サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
前記サーバは、
前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
前記コメント情報は、
前記第1コメント及び前記第2コメントと、
前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示
位置と重なるか否かを判定する判定部と、
重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、
前記動画と、
前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、
が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、コメント配信システム。

[主な争点]
被控訴人らによる被告各システムの「生産」の有無(争点4)

[原判決]
『原審は、①被告各システムは、本件特許に係る発明の全ての構成要件を充足し、その技術的範囲に属する、②しかし、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味する属地主義の原則から、特許法2条3項1号の「生産」に該当するためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物が、日本国内において新たに作り出されることが必要であると解すべきであるところ、被告各システムの構成要素である被告各サーバは、いずれも米国内に存在し、日本国内に存在するユーザ端末のみでは、本件特許に係る発明の全ての構成要件を充足しないから、被控訴人らが被告各システムを日本国内で「生産」したものとは認められず、また、被控訴人HPSが、控訴人が侵害を主張する期間において被告各サービスに関する業務を行っていたとは認められないとして、被控訴人らによる本件特許権の侵害の事実を認めることはできないと判断し、控訴人の請求をいずれも棄却した。』

[裁判所の判断]
『(2)被控訴人FC2による被告各システムの「生産」の有無について
ア 被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否かについて
(ア)はじめに
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備えるコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、その実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。
そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有するようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解される。
そこで、被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否かを判断するに当たり、まず、被告サービス1のFLASH版において、被告システム1を新たに作り出す行為が何かを検討し、その上で、当該行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか及び当該行為の主体について順次検討することとする。
(イ)被告サービス1のFLASH版における被告システム1を新たに作り出す行為について
・・・(略)・・・ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が新たに作り出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。
・・・(略)・・・
(ウ)本件生産1の1が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについて
a 特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものであるところ(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)、我が国の特許法においても、上記原則が妥当するものと解される。
前記(イ)aのとおり、本件生産1の1は、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを国内のユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、また、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって行われているところ、上記ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバは、いずれも米国に存在するものであり、他方、ユーザ端末は日本国内に存在する。すなわち、本件生産1の1において、上記各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題となる。
b ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(以下、単に「国外」という。)に設置されることは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構成する端末が日本国内(以下「国内」という。)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。
そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。
他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。
これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。
これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観念することができる。
次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人FC2のサーバと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている。
さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るものである。
以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。
・・・(略)・・・
(エ)被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)を「生産」した主体について
a 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)は、前記(イ)aのとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存された上記SWFファイルによる命令に従ったブラウザからのリクエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末
に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって、新たに作り出されたものである。そして、被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人FC2であるというべきである。
・・・(略)・・・上記のユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブページの閲覧を通じて行われるものにとどまり、ユーザ自身が被告システム1を「生産」する行為を主体的に行っていると評価することはできない。
・・・(略)・・・
以上によれば、被控訴人FC2は、本件生産1の1により、被告システム1を「生産」(特許法2条3項1号)したものと認められる。』

[コメント]
原判決では、特許法2条3項1号の「生産」に該当するためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物が国内で新たに作り出されることが必要であると解し、被控訴人の行為は被告システムの「生産」に該当しないとして、本件特許権の侵害を否定した。
これに対し、本判決(大合議判決)では、サーバが国外に存在することを理由として一律に「実施」に該当しないと解すると、特許権の十分な保護を図ることができないとして、属地主義の原則を厳格に解釈した原審の判断を覆しつつ、その一方で、端末が国内に存在することを理由として一律に「実施」に該当すると解することについては、特許権の過剰な保護となるため妥当でないとし、それらを踏まえた結果、具体的な事情を総合考慮したうえで、システムを新たに作り出す行為が国内で行われたものとみることができるときには「生産」に該当する、と説示している。
本判決は、属地主義の原則を柔軟に解釈し、国外に存在するサーバを構成要素とするシステムを新たに作り出す行為が「生産」に該当し得ることを示した点で意義がある。属地主義の原則を厳格に解釈し、サーバが国外に存在することを理由に特許を回避できるとなれば、ネットワーク型システムの発明を適切に保護できないことになるため、本判決で示された考え方は、サーバを国外に設置することが一般的となった現状に即した権利保護に資するであろう。
因みに、本件では、令和3年の特許法改正によって新たに導入された証拠収集手続である第三者意見募集(特許法105条の2の11)が初めて実施され、サーバが国外に存在するシステムの「生産」について、多数の意見書が証拠として提出されている。
尚、本件の当事者による平成30年(ネ)第10077号特許権侵害差止等請求控訴事件では、動画上にコメントを表示する表示装置と、当該表示装置を機能させるプログラムの発明に関して、国外に設置されたサーバから国内のユーザに向けてプログラムを配信する行為が「提供」に該当するか否かが争われている。当該判決では、諸事情を考慮し、当該行為が実質的かつ全体的にみて国内で行われたものと評価できるときは「提供」に該当することが示されている。弊所ウェブサイトでも取り上げているので、本判決と併せて確認されたい(https://unius-pa.com/infringement_lawsuit/9752/)。
以上
(担当弁理士:椚田 泰司)

令和4年(ネ)第10046号「コメント配信システム」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ