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令和4年(ワ)第2049号「包装容器」事件

名称:「包装容器」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:令和4年(ワ)第2049号 判決日:令和5年7月6日
判決:請求棄却
関連条文:特許法70条1項及び2項
キーワード:構成要件充足性
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/237/092237_hanrei.pdf

[概要]
請求項1の「前記底部を形成する底面片」に対し、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、筒状の包装容器の下側を塞ぐ部材を意味する、と原告の主張よりも狭く判断された結果、侵害が認められなかった事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第5235041号(本件特許権)の特許権者である。
裁判所は、被告製品が本件特許権の構成要件を充足しないと判断し、原告が主張する被告製品の譲渡等の差止、破棄、損害賠償の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】(本件発明1)
A 1枚の包装紙が開口部と底部とを有する筒状に折られ、この筒状の奥行きよりも幅の方向が広く形成された包装容器であって、
B 前記包装容器を容器として形成した状態において、前記底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片が載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、前記自立片によって前記載置面に自立させられる、  C ことを特徴とする包装容器。
【請求項2】(本件発明2)
D 前記包装紙が、
D-1 正面片と、
D-2 この正面片の側端に連ねられた背面片と、
D-3 前記正面片の下端に連ねられた前記底面片と、
D-4 この底面片の先端に連ねられた前記自立片と、
から構成され、
E 前記背面片が前記正面片側に折られて筒状に形成され、前記底面片が折られることで前記筒状の下端が塞がれて前記底部が形成されると共に、前記自立片が前記奥行の方向に突出している、
F ことを特徴とする請求項1に記載の包装容器。

[主な争点]
被告製品の本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)
「底部」、「底面片」及び「自立片」の意義並びに被告製品の充足性(構成要件B、D-3、D-4、E、Gの関係)

[裁判所の判断]
『1 「底部」、「底面片」及び「自立片」の充足性(構成要件B、D3、D4、E、G の関係)について
・・・(略)・・・
(2)本件発明1 について
ア 「底部」、「底面片」及び「自立片」の意義
(ア)特許請求の範囲の記載
本件特許に係る特許請求の範囲請求項1の記載によれば、「底部」とは、1枚の包装紙が筒状に折られて形成される「包装容器」において、その「筒状」とされる部分が開口部と共に有するものである(構成要件A)。また、「底面片」は、「前記包装容器を容器として形成した状態において、前記底部を形成する」ものである(構成要件B)。さらに、「自立片」は、この「底面片と同一面に連なる」ものであると共に、「載置面に沿って前記奥行の方向に突出」するものであり、「包装容器」を「前記載置面に自立させ」る機能を有するものである(構成要件B)。
「底部」とは「底」となる部分を意味するところ、「底」とは、「①凹んだものや容器の下の所。」、「②物体の下面。底面。また、集積したものの下層部。」等の意味を有する(乙1)。そうすると、本件発明1 における「底部」は、「包装容器」の筒状部分が開口部と共に有するものであり、筒状の構造部分の「下の所」すなわち底に当たる部分を意味するものと理解される。また、筒状の構造部分が「容器」(物を入れるうつわ。入れ物)として機能するものである以上、その「底部」は、筒状の包装容器の下側を塞いでいる部分を指すものと理解される。
そうすると、「底面片」は、このような「底部」を形成するものであるから、本件発明1の包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装容器の下側を塞ぐ部材を意味するものと理解される。また、「自立片」は、このような「底面片」と「同一面に連なる」ものであり、かつ、「載置面に沿って前記奥行の方向に突出」し、「包装容器」を「前記載置面に自立させ」る機能を有するものということになる。
(イ)本件明細書の記載
本件明細書記載の本件発明1に係る第一実施形態において、底部9は、筒状の包囲部7、包囲部7の上端である開口部8と共に包装容器10を構成し、包囲部7の下端をなすものである(【0019】)。また、底部9は、底面片40と内側底面片50とが折り重ねられて形成され、底面片40は、自立片60が同一面に連ねられて載置面に沿って奥行方向に突出している(【0019】、【0021】、【0026】)。さらに、内側底面片50と底面片40は、包囲部7を筒状に維持したまま内側底面片50を内側底面折り目5で山折りした後、底面片40を底面折り目4で山折りして内側底面片50に折り重ねることで包囲部7の下端を塞ぎ、これによって底部9を形成する(【0030】)。他方、自立片は、底面片40の先端に連ねられており(【0021】)、底面片40と同一平面上で、奥行方向に突出している(【0030】)。このように、奥行の方向に突出した自立片60によって、包装容器10は傾斜した状態で支えられる(【0031】)。
そうすると、本件明細書の記載からも、「底部」は、包装容器の筒状部分である包囲部の下端にあって、上端の開口部と共に包装容器を構成するものであり、容器として機能する筒状の構造部分の底に当たる部分であって、筒状の包装容器の下側を塞いでいる部分を指すものと理解される。また、「底面片」は、このような「底部」を形成するものであり、包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装容器の下側を塞ぐ部材を意味するものと理解される。他方、「自立片」は、このような「底面片」と同一面に連なるものであり、かつ、載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、包装容器を前記載置面に自立させる機能を有するものということになる。
(ウ)小括
このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件発明1の「底部」は、「包装容器」の筒状部分が開口部と共に有するものであり、「容器」として機能する筒状の構造部分の底に当たる部分であって、筒状の包装容器の下側を塞いでいる部分を指すものと理解される。また、「底面片」は、このような「底部」を形成するものであり、包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装容器の下側を塞ぐ部材を意味するものと理解される。さらに、「自立片」は、このような「底面片」と同一面に連なるものであり、かつ、載置面に沿って前記奥行の方向に突出し、包装容器を前記載置面に自立させる機能を有するものということになる。
イ 被告製品の構成要件充足性
(ア)被告製品においては、背面片が片Ⓐ側に折られて筒状に形成される(構成e-1、e’-1)。その際、背面片の下端に連ねられた六角片(構成d-3、d’-3)は、筒状部分下端から内側に折り込まれ、この折り込まれた六角片は、筒状部分内部に収められる内容物の下部に位置し、筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止している(構成e-2、e’-2)。このため、被告製品の六角片は、本件発明1の「底部を形成する底面片」に相当するものといえる。
(イ)被告製品の舌状片は、片Ⓐの下端に連ねられた部材であり(構成d-4、d’-4)、筒状部分の下端(六角片の接続箇所の反対側)から内側に折り込まれ(構成e-3、e’-3)、容器として形成した状態において、六角片と共に、略弧状に湾曲した状態となり、片Ⓐに連なって、載置面に沿って背面側に突出し、載置面に置くと、舌状片によって、被告製品は、載置面に背面方向に斜めに自立する(同b、b’)。このため、被告製品の舌状片は、本件発明1の「自立片」に相当するものといえる。
他方、筒状部分の下端から内側に折り込まれた六角片と舌状片とは接触しておらず、両者の間には隙間がある(同e-4、e’-4)。このことと、被告製品の筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止する機能を果たしているのは六角片であることを併せ考えると、舌状片は、筒状部分の下側を塞いでいるとはいえず、「底部を形成する底面片」に相当するものとはいえない。
(ウ)六角片と舌状片とは、六角片は背面片の下端に連ねられているのに対し、舌状片は片Ⓐの下端に連ねられており、同一面に連なるものとはいえない。
したがって、被告製品は、「底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片」(構成要件B)を充足しないから、本件発明1の技術的範囲に属しない。』

[コメント]
本判決では被告の主張が採用されたが、場合によっては原告の主張が採用されたかもしれない判断の難しい事例と考える。本判決は、底部の解釈について、筒状の包装容器の下側を塞ぐ部材を意味すると判断しているが、本件発明に係る実施形態では、包装容器の下側を塞ぐのは内側底面片50であり、底面片40が内側底面片50に下方から折り重ねられているので、底面片40が包装容器の下側を塞ぐ部材と同一視されているように見受けられる。これに対し、被告製品では、内側底片50に相当する六角片が包装容器の下側を塞ぐ部材であり、舌状片が六角片から離れているので、舌状片が包装容器の下側を塞ぐ部材の六角片と同一視できないと判断されたように考える。
底部の解釈について、原告は、容器内側から見た底部分だけでなく、容器全体の底部分を意味するという旨を主張しており、不当な印象がないものの、同様に、裁判所が採用した被告の主張にも不当な印象がない。本件では、技術的範囲の属否の判断において、底面片と同一面に連なる自立片による効果が考慮されているわけでもなく、判決の考察が難しい事例と考える。
以上
(担当弁理士:坪内 哲也)

令和4年(ワ)第2049号「包装容器」事件

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