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令和5年(ワ)第70102号「半発酵茶葉」事件

名称:「半発酵茶葉」事件
特許権侵害差止及び特許権侵害賠償請求事件
東京地方裁判所:令和5年(ワ)第70102号 判決日:令和5年12月4日
判決:請求棄却
特許法70条
キーワード:文言解釈
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/608/092608_hanrei.pdf

[概要]
本件発明の「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味するものと解するのが相当であるという理由により、被告らの実施が、原告の特許権に係る特許発明の構成要件を充足していないとして、原告の特許権を侵害しないとされた事例。

[特許請求の範囲]
【請求項4】
紅茶を除く、乾燥した半発酵茶において、下記三つの特性を有することを特徴とする半発酵茶葉。
(1) 茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるポリフェノールの重量が当該茶葉の乾燥重量の18重量%以下である特性;
(2) 茎が取り除かれた前記茶葉に含有されるEGCGとECGの合計重量が当該茶葉の乾燥重量の2重量%以下である特性;
(3) 茎が取り除かれた前記茶葉に含有される総カテキンの重量が当該茶葉の乾燥重量の7重量%以下である特性;

[主な争点]
被告各製品の充足性について(争点1)
とりわけ、「茎が取り除かれた」該当性(構成要件BないしD)(争点1-2)

[原告の主張]
中国から日本に輸出される烏龍茶は、全て仕上茶であるから、等級を問わずに茎を取り除く工程を経ている。仮に茎を取り除かなければ、被告各製品には全体の13~18重量%の茎が含まれているはずであり、見た目も悪くなるはずであるが、実際にはそうではない。したがって、被告各製品は構成要件BないしDの「茎が取り除かれた」という構成要件を充足する。
仮に、被告各製品について茎が完全には取り除かれていなかったとしても、少々の茎は、この業界の許容範囲であれば茎が取り除かれた規格とみなされているし、その場合でも被告各製品の半発酵茶という性質に何ら変わりはないから、やはり充足するというべきである。

[被告らの主張]
本件特許は、茎を取り除いた茶葉で官能試験を行い、茎を取り除いた茶葉に対する成分の割合で結果が良かったもの(苦渋みが少なく、水の色が濃く、味にはコクと深みがあるもの)を特定するものである。他方、茎を取り除かない場合には、茶葉と茎では当然に成分が異なる上、茎を含む乾燥茶葉では、茎を取り除いた乾燥茶葉全体に対する各成分の分量が当然に異なることになる。また、茎を取り除かない乾燥茶葉では、茎が取り除かれた乾燥茶葉における官能試験の結果とは、苦渋み、水の色、味が当然に異なることになり、解決しようとする課題は解決できない。したがって、本件特許は、茎が取り除かれた茶葉を対象とするものである。
そうすると、被告各製品はそれぞれ茎を含有しているから、いずれも構成要件BないしDを充足しない。
[裁判所の判断]
『ア 本件発明の構成要件BないしDは、ポリフェノールの重量、EGCGとECGの合計重量又は総カテキンの重量につき、各構成要件記載の重量%以下に限定するものであるが、上記構成要件にいう「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味するのか、あるいは、茎を含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示すものか、文言上必ずしも明らかではない。そのため、本件明細書の記載を考慮して、その用語の意味を解釈すると、本件明細書の記載【0079】には、「サンプリング方法:できた各号のお茶の茎を取り除き、篩い分けて12メッシュパス20メッシュオンの砕茶を各800g採取する。」として、本件発明の半発酵茶葉は、その茎が取り除かれることが明確に記載されている。そして、本件明細書の他の実施例をみても、官能試験によって本件発明の効果が確認されている茶葉は、いずれもサンプリングの段階で茎が取り除かれたものであり、本件明細書全体の記載によっても、茎が含まれた茶葉については、本件発明の効果を確認するような記載が一切存在せず、本件発明の茶葉に茎が含まれることを示唆する記載も一切認められない。
上記各構成要件及び本件明細書の記載を踏まえると、上記各構成要件にいう「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味するものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記認定事実及び弁論の全趣旨(・・・(略)・・・)によれば、被告各製品の茶葉には、いずれも多くの茎が含まれていることが認められる。
したがって、被告各製品は、本件発明の構成要件BないしDを充足するものと認めることはできない。』
『イ これに対して、原告は、①仮に茎を取り除かなければ、被告各製品には全体の13重量%から18重量%の茎が含まれているはずであり、見た目も悪くなるはずであるが、実際にはそうではないこと、②仮に茎が完全には取り除かれていなかったとしても、少々の茎は、この業界では茎が取り除かれたものとみなされていること、③仮に茎が取り除かれていないとしても、被告各製品の半発酵茶という性質に何ら変わりはないことを主張する。
しかしながら、本件特許に係る茶葉は、茎が取り除かれているものであることは、上記において説示したとおりであり、原告の主張は、本件特許の構成要件の用語の意義を正解しないものである。また、被告各製品には、少々とはいえない茎が含まれていることも、上記において認定したとおりであり、原告の主張は、その前提を欠くというほかない。』

[コメント]
裁判所は、「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味するのか、あるいは、茎を含む半発酵茶葉のポリフェノール等の重量%を測定するための条件を示すものか、文言上必ずしも明らかではない、と認定したうえで、本件明細書の記載に基づき「茎が取り除かれた」とは、本件発明の半発酵茶葉が茎を含まないことを意味する、と解釈した。
原告は、「茎が取り除かれた」が、本件発明の半発酵茶葉が茎を完全に含まないことを意味することは認めていなかったものの、茎を取り除く工程を経たものであること自体は認めていたようである(原告の主張参照)。
「茎が取り除かれた」は、茎を含む半発酵茶葉の測定条件を示すものとも読み取り得ることに照らすと、原告は、本件発明の半発酵茶葉が、茎を取り除く工程を経たものであること自体を認めないスタンスの主張を追加することが可能であったかもしれない。

以上
(担当弁理士:森本 宜延)

令和5年(ワ)第70102号「半発酵茶葉」事件

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