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令和5年(ワ)第70001号「廃水処理装置」事件

名称:「廃水処理装置」事件
特許専用実施権侵害差止請求事件
東京地方裁判所:令和5年(ワ)第70001号 判決日:令和6年4月17日
判決:請求棄却
特許法70条、100条1項
キーワード:構成要件充足性
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/925/092925_hanrei.pdf

[概要]
本件発明における供給手段は、オゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まないから、オゾンが意図的・積極的に加えられたマイクロナノバブルを供給する被告システムは本件発明の技術的範囲に属しない、として侵害が認められなかった事例。

[事件の経緯]
専用実施権者である原告が、被告に対し、原告の有する特許権の専用実施権を侵害し又は侵害するおそれがあると主張して、前記専用実施権による差止請求権に基づき差止め、廃棄等請求権に基づき「マイクロ・ナノバブル発生装置」及び「活性炭含有担体」の廃棄並びに前記システムに関するウェブページの削除及びパンフレットの廃棄を求めた。

[本件発明1]
A 処理対象となる被処理水を収容する第1の収容槽と、
B 該第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段と、
C 前記オゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容する第2の収容槽と、
D 該第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段と、
E 前記第2の収容槽内に収容され、微小径の粉末状に生成され個々の粉末にオゾン分子を集めるポーラスを有する活性炭が担持される、多数の空孔が形成された複数の担体と、から少なくとも構成されており、
F 前記担体の空孔は、前記マイクロナノバブルよりも大径に形成され、前記空孔内に好気性微生物及び通性嫌気性微生物のいずれもが担持されている、
G ことを特徴とする廃水処理装置。

[被告システム]
a 原水を収容する調整槽と、
b 該調整槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するマイクロ・ナノバブル発生装置と、
c 前記オゾンによって処理された被処理水を残オゾンとともに収容する曝気槽と、
d 該曝気槽内に酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するマイクロ・ナノバブル発生装置と、
e 前記曝気槽内に収容され、小径の粉末状に生成され個々の粉末にオゾン分子を集めるポーラスを有する活性炭が含有される、多数のマイクロポーラスが形成された複数のスポンジからなる活性炭含有担体と、から少なくとも構成されており、
f 被告担体に通性嫌気性微生物が存するほか、被告担体のマイクロポーラスは、前記マイクロナノバブルよりも大径に形成され、少なくとも前記マイクロポーラス内の被告担体表層に好気性微生物が担持される、
g 排水処理システムであり、
h 被告担体は長辺と短辺とを備えた略直方体に形成されている。

[主な争点]
構成要件Dの充足性(争点1)

[裁判所の判断]
『2 争点1(構成要件Dの充足性)について
(1)・・・(略)・・・
そして、本件各発明は、前記1(2)のとおり、廃水処理後の被処理水に含まれる残オゾンの低減と、被処理水の生物処理の促進とを両立させることができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的としたものであり、・・・(略)・・・
本件明細書には、第2の収容槽内に本件各発明の担体を収容することに関して「被処理水中を漂う残オゾンのバブルを担体に吸着させる結果、オゾン分子同士を積極的に酸素分子に化学変化させて残オゾンを低減できると同時に、水酸基ラジカルを豊富に生成させることで有機物の分解を促進し、当該酸素分子及び同じく担体に吸着した酸素バブルにより生物処理を活性化させることができる」(【0009】)ことが記載され、第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段を有することに関して「第1の収容槽にて、オゾン供給工程でオゾンによって殺菌処理された被処理水と残オゾンに対し、好気性微生物を担持した担体を収容した第2の収容槽にて、生物処理工程で酸素を含むマイクロナノバブルを供給することで、この酸素で活性化した好気性微生物による被処理水の生物処理を効果的に行うとともに、残オゾンに付加された酸素により水酸基ラジカル及び酸素に積極的に化学変化させることで、この残オゾンを早期に低減させることができる。」(【0017】)ことが記載されている。すなわち、【0017】では、本件各発明においては、第1の収容槽での工程に基づく「残オゾン」について、第2の収容槽において、酸素を含むマイクロナノバブルを供給することで、この「残オゾン」を早期に低減させることが記載されている。
・・・(略)・・・第2の収容槽内に、酸素を含む空気のマイクロナノバブルが供給されることがあることが記載されている。他方、本件明細書には、第2の収容槽内に供給されるマイクロナノバブルとなる「酸素」又は「酸素を含む空気」について、オゾン発生装置に通して、オゾンを発生(酸素の一部をオゾンに変換)させた後、得られたオゾンを含む酸素(空気)をマイクロナノバブル発生ノズルの枝管から圧縮部内に吸引させてもよい旨の記載や示唆は一切ない。
また、本件意見書には、「・・・(略)・・・更に第2の収容槽にマイクロナノバブルに含まれる酸素に加え、オゾン処理に用いたオゾンを除くマイクロナノバブルに含まれる残オゾンが供給されております。この第2の収容槽に収容された複数の担体にて生じる作用について説明しますと、各担体の表面に形成された空孔内に、この空孔の径よりも微小なマイクロナノバブルに含まれる酸素が付着し、同様に担体の空孔内に付着した残オゾンが活性炭の触媒機能により積極的に酸素に化学変化させることで、これら豊富な酸素によって、好気微生物を活発化させて有機物分解を促進するばかりか、残オゾンを早期に低減させるという効果を奏します。」との記載がある。ここでも、原告は、本件各発明について、第2の収容槽においては、第1の収容槽でのオゾン処理によるものである「残オゾン」があるところ、第2の収容槽においてその低減が実現されること、その実現のための構成として、第2の収容槽に、所定の担体が収容されることに併せ、酸素を含むマイクロナノバブルが供給されることを説明しているといえる。
(2)・・・(略)・・・
したがって、本件各発明においては、オゾンによる殺菌等を行った後の被処理水に含まれる残オゾンの低減をも目的として第2の収容槽とそれに関する構成を設けているのであり、残オゾンを低減させるための構成ともいえる第2の収容槽内に、少なくとも積極的にオゾンを供給することは、課題の解決に至らず、本件各発明において第2の収容槽とそれに関する構成を有することとしたことと相容れないものといえる。
そして、オゾン発生装置で製造されるオゾンは、純度100%のオゾンガスが製造されるものでないことは技術常識である上、本件明細書【0031】において、オゾン発生装置29によって発生し、このオゾン発生装置29に接続され吸気管を介し吸気されたオゾンは、複数分岐した枝管24を通って圧縮部22内に噴出されるようになっていて、この圧縮部22内に噴出された気泡がオゾンを含むマイクロナノバブルとされていることからしても、第1収容槽内に供給される「オゾンを含むマイクロナノバブル」については、当然に酸素(空気)を含むものも想定されていたといえる。
以上に照らせば、本件各発明の特許請求の範囲の「第1の収容槽内にオゾンを含むマイクロナノバブルを供給するオゾン供給手段」と、「第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」の記載は、特にオゾン供給の有無という点において上記課題の解決のための対照的なマイクロナノバブルの供給手段として記載されているものと解するのが相当であり、「第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、第1の収容槽への供給手段と異なり、そのマイクロナノバブルにはオゾンが積極的に加えられているものではなく、その供給手段には、オゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まないというべきである。したがって、第2の収容槽内にオゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段を有する装置は、構成要件Dを充足しないと解される。
(3)被告システムは、前記第2の1(6)のとおり、構成要件Dの第2の収容槽に当たる曝気槽内に、酸素及びオゾンを含むマイクロナノバブルを供給する被告装置を有しており、そのマイクロナノバブルには、オゾン発生装置から得られたオゾンガス、すなわちオゾンと酸素の混合ガスが用いられていて、オゾンが意図的、積極的に加えられていると認められるから・・・(略)・・・、構成要件Dを充足しない。
(4)原告は、被告装置は、オゾンよりも多くの酸素が残存して含まれている上、当該オゾン自体も活性炭により化学変化させて酸素となることにより、好気性微生物及び通性嫌気性微生物を活性化させており、十分効果的である旨主張する。
しかし、本件明細書に記載された本件各発明の目的、課題の解決手段等からすれば、本件各発明における「酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、前記(2)のとおり解するのが相当である。
また、原告は、オゾンは微量であるが、大気中に存在するし、「オゾン発生装置」で生成されたオゾンは自然に消滅して酸素に置き換わるものなので、「第2収容槽内においてはオゾンの量を早期に低減」させることは、2次的な効果にすぎない旨主張するが、前記(1)及び(2)で述べたところによれば、残オゾンを早期に低減させることが本件各発明の2次的な効果にすぎないといえない。
(5)以上によれば、被告システムは構成要件Dを充足せず、本件発明1の技術的範囲に属しない。』

[コメント]
構成要件Dは、オゾンを積極的に低減させるために酸素を供給する構成であるが、一方被告製品の構成dはオゾンを意図的、積極的に供給する構成となっており、異なる作用効果を奏するものであると判断された。
裁判所は、構成要件の充足性を判断する上で、明細書に開示された課題(目的)とその解決手段である構成要件の一致点と相違点、その作用効果の有無、包袋禁反言のすべてを考慮して判断していたと考える。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)

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