IP case studies判例研究
侵害訴訟等
令和4年(ワ)第22517号「トイレットロール」事件
名称:「トイレットロール」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:令和4年(ワ)第22517号 判決日:令和6年8月21日
判決:請求棄却
関連条文:特許法70条1項及び2項
キーワード:構成要件充足性、測定方法
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/308/093308_hanrei.pdf
[概要]
本件発明1の数値限定に係る構成要件については、報告書記載の測定方法は明細書記載の測定方法といえないとの理由で、また、本件発明2の「指掛け穴」に係る構成要件については、明細書等に記載されたとおりの構成と文言解釈された上で、各被告製品がこれに相当する構成を有さないとの理由で、各被告製品が原告特許発明の構成要件を充足するとはいえないと判断された事例。
[特許請求の範囲]
・本件発明1(本件特許権1(第6735251号)の請求項1)
1A 2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロールであって、
1B 前記エンボスのエンボス深さが0.05~0.40mm、
1C 巻固さが0.3~1.4mm、
1D 巻長が63~103m、
1E 巻直径が105~134mm、
1F 巻密度が1.2~2.0m/cm2であり、
1G 前記トイレットペーパーの比容積が、4.0~6.5cm3/gであり、
1H 前記エンボス1個当たりの面積が、2.5~6.0mm2である
1I トイレットロール。
・本件発明2-1(本件特許権2(第6590596号)の請求項1)
2A フィルムからなる包装袋に、衛生薄葉紙の2plyのシートを巻いたロール製品を複数個収納してなるロール製品パッケージであって、
2B 前記ロール製品が軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ねて前記包装袋に包装してなり、
2C 前記包装袋は筒状のガゼット袋から構成され、
2D 前記ロール製品を囲む略直方体状の本体部と、前記本体部の上辺のうち、互いに対向する長辺から上方に向かってそれぞれ切妻屋根型に延びて接合された把持部と、を有し、
2E 前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、
2F 前記ロール製品の巻長が63~103m、
2G コアを含む1個の前記ロール製品の質量が200~370gであり、
2H (前記包装袋内の4個の前記ロール製品の質量)/(前記フィルムの坪量)が25~80(g/(g/m2))であり、
2I 前記長辺から前記把持部までの前記包装袋の傾斜角θが25~45度であり、
2J 前記長辺同士の間隔Wが105~134mmである
2K ロール製品パッケージ。
[主な争点]
1 構成要件1Bの充足性(争点1-1-2)
2 構成要件2Eの充足性(争点2-1-1)
[裁判所の判断]
1 構成要件1Bの充足性(争点1-1-2)について
『(1) 構成要件1Bは、「前記エンボスのエンボス深さが0.05~0.40mm、」というものであり、・・・(略)・・・。
(2) ・・・(略)・・・。
(3) 原告は、各被告製品について、エンボス深さD、エンボス面積を測定した結果として実験結果報告書(甲10。以下「甲10報告書」という。)を提出する。・・・(略)・・・
(4) ・・・(略)・・・原告は、甲10報告書の提出後、甲10報告書の測定において断面曲線上のP1、P2をどのように特定したかについての記載・・・(略)・・・が示されている報告書(甲51。以下「甲51報告書」という。)を提出した。・・・(略)・・・(以下、このような甲51報告書で示された原告による測定方法を「原告測定方法」ということがある。)。
(5) 本件明細書1では、【図4】が示され、最長部aとそれと垂直な方向での最長部bを求めることとし、X-Y平面画像の色の濃淡でエンボスの凸部と凹部が分かるので、最長部aを見分けることができ、凸部と凹部が隣接している部分を横切るように線分A-Bを引き、断面曲線で上に凸となる曲率極大点をP1、P2として、エンボスの深さDを求めている。
他方、甲10報告書では、各被告製品のエンボスの形状が略正方形であることを確認したとして、その略正方形の横方向の辺の長さをaとしたうえで、該略正方形を水平方向に横切る線及びその線を垂直に横切る線で、エンボスの高さ(測定断面曲線)プロファイルを取得している。
仮にエンボスの形状が略正方形であるとしても、本件明細書1でいう最長部aが、その横方向の辺の長さとなるとは必ずしもいえず・・・(略)・・・、原告測定方法におけるエンボスの深さを測定するための測定断面曲線の取得位置は、本件明細書1で示された位置であるとは必ずしもいえない。また、本件明細書1では、断面曲線で上に凸となる曲率極大点をP1、P2としているのに対し、原告測定方法では、断面曲線上のP1、P2の具体的位置はワンショット画像によって決められたものである。このようなP1、P2の決定方法は、本件明細書1に記載された測定方法とはいえない。なお、後記(6)で示すとおり、原告測定方法によってP1、P2とされた点の中には、各被告製品について、上に凸となる曲率極大点でない点が相当数存在する。・・・(略)・・・。
(6) ・・・(略)・・・。そして、そもそも、本件明細書1では、本件発明1のエンボス深さDの測定に当たり、X-Y平面上の高さプロファイルの濃淡によりエンボスの凸部、凹部が分かることでエンボスの周縁の位置が特定できることを前提として、個々のエンボスについて、エンボスの周縁frの最長部aを求めるとしている。ところが、各被告製品のワンショット画像(X-Y平面上の高さプロファイル)は、被告製品1のエンボス①、②について上に示したものと同様のものであり、各被告製品のエンボスは、エンボス周縁の位置が明確に特定できるようなものではない。
・・・(略)・・・各被告製品は、各シートのエンボスの凹凸の位置関係を特に調整しないまま、プライボンディングした通常の2プライのダブルエンボスである(弁論の全趣旨)。このようなダブルエンボスのトイレットロールにおいては、表面と裏面にそれぞれ付されたエンボスが重なるとは限らず、エンボスの周縁が一致することが保証されていないことから、エンボスの周縁が明確にならず、また、エンボスの凹凸の位置がずれることにより干渉し、その形状が明瞭でないエンボスが生じ得る。そして、甲51報告書によれば、各被告製品については、原告がエンボスとして特定した部分の中央に、断面曲線で上に凸の曲率極大点が認められるなど、そのエンボスが本件発明1のエンボス深さDを測定する際に想定されていた凹部形状のものであるかが必ずしも明らかではないほか、X-Y平面上のエンボスの高さプロファイルによって、エンボスの周縁frやその最長部aがどこに位置するのかを確定できるものとは必ずしもいえない。そうすると、そのようなエンボスが付された各被告製品のトイレットロールについてエンボスを10個選んで測定を行い、それらの平均値として一定の深さDを求めたとしても、本件発明1におけるエンボス深さDが測定できたということはできない。
(7) 以上によれば、原告測定方法は、本件明細書1に記載されたエンボス深さの測定方法とはいえず、原告測定方法に基づいた甲10報告書によって、各被告製品が構成要件1Bを充足するとは認めることはできない。・・・(略)・・・。
したがって、各被告製品はいずれも構成要件1Bを充足するとはいえない。』
2 構成要件2Eの充足性(争点2-1-1)について
『(1) ・・・略・・・。上記の特許請求の範囲の記載によれば、形成される指掛け穴は、把持部のほぼ中央に形成され、「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状」のものである。
本件明細書2には、本件発明2の実施例として【図1】が示され、その説明において、「把持部4のほぼ中央に、上向きに非切抜部を有するほぼ長円のスリット状の指掛け穴2が設けられている。そして、購入者がロール製品パッケージ200を運搬する際に指掛け穴2のスリットを切抜き、非切抜部を固定端とする片部を上方に折り返すと、折り返し部がU字形に屈曲するので鋭い端面が生じず、指が痛くならない。但し、指掛け穴2の形状はこれに限定されない。」(【0012】)との記載がある。
・・・(略)・・・特許請求の範囲の「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」との文言は、その「指掛け穴」が既に「形成」されているものであることからも、その「形成」されている「指掛け穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」であり、また、そのほぼ長円の上部輪郭が非切抜部であると理解することができるものであるところ、本件明細書2の上記部分には、そのような理解に沿う構成が記載されているということができ、・・・(略)・・・また、【図1】に記載された指掛け穴も上記の理解に沿ったものである。そうすると、構成要件2Eの「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」とは、同構成について本件明細書2において記載されている、上記に述べたとおりの構成のものであると認められる。・・・(略)・・・。
(2) ・・・(略)・・・。被告製品1及び被告製品3の包装袋のスリットをみると、その両端部はそれぞれ外側に湾曲して下方に向かい、終端が内側に位置しているから、このようなスリットの両端部の終端の位置を考慮すると、被告製品1及び被告製品3においては、形成されている「スリット状」の「指掛け穴」の下部輪郭が「非切抜部」であるともいえ、その非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きにより上方に折り返されるものではない。また、原告主張の熱融着部(写真3参照)とスリットとを見ると、スリットは、その中央が、その上方に対しては、弧状であるとしても、その左右には、上方への折り返しとなる頂点が存在せず、それ自体「ほぼ長円」を形成しているとはいえず、「スリット状」の「ほぼ長円」が形成されていないから、原告主張の上記熱融着部の円弧が「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭にあるとはいえず、そこを構成要件2Eの「非切抜部」であるということはできない。・・・(略)・・・。
(3) ・・・(略)・・・。
(4) 以上によれば、被告製品1及び被告製品3は、いずれも、構成要件2Eを充足せず、本件発明2(本件発明2-1から本件発明2-4まで)の技術的範囲に属するということはできない。』
[コメント]
エンボス深さの測定に際し、明細書記載の方法では、エンボスの周縁が特定できることを前提としている。そして、各被告製品は、周縁や形状が明瞭でないエンボスが生じ得るダブルエンボスタイプであったため、原告測定方法では、各被告製品に対して、エンボスの周縁に基づいた検証結果が示されなかった印象である。したがって、各被告製品が構成要件を充足するとはいえないとの判断は妥当と考える。
「指掛け穴」に係る構成要件に関し、その文言に鑑みると、明細書等に記載の構成のものであると解釈された上で、各被告製品が構成要件を充足しないとの判断は妥当と考える。
以上
(担当弁理士:廣田 武士)
令和4年(ワ)第22517号「トイレットロール」事件
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