IP case studies判例研究

令和5年(受)第2028号「コメント配信システム」事件

名称:「コメント配信システム」事件
特許権侵害差止等請求事件
最高裁判所:令和5年(受)第2028号 判決日:令和7年3月3日
判決:上告棄却
関連条文:特許法2条3項1号
キーワード:実施、生産、ネットワーク関連発明、属地主義、域外適用
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/839/093839_hanrei.pdf

[概要]
国外に所在するサーバと国内に所在する端末とを含むシステムを構築する行為について、システムを構築するための行為や当該システムを全体としてみて、当該行為が実質的に我が国の領域内における「生産」に当たると評価されるときは、これに我が国の特許権の効力が及ぶと解されるとし、控訴審の判断が維持された事例。

[本件発明1]
サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
前記サーバは、
前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
前記コメント情報は、
前記第1コメント及び前記第2コメントと、
前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示
位置と重なるか否かを判定する判定部と、
重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、
前記動画と、
前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、コメント配信システム。

[争点]
我が国の領域外に所在するサーバと領域内に所在する端末とを含むシステムを構築する上告人の行為が特許法2条3項1号にいう「生産」に当たるか。

[経緯]
1 一審
第一審は、特許法2条3項1号の「生産」に該当するためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物が国内で新たに作り出されることが必要であると解し、上告人の行為は本件発明1に係るシステムの「生産」に該当しないとして、本件特許権の侵害を否定した。

2 控訴審(原審)
ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについて、知財高裁は、当該システムの一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮したうえで、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である、と説示した。
そして、知財高裁は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末への各ファイルの送信、及び国内のユーザ端末による受信(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによってシステムが完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観念することができる点、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能である動画上のコメントの表示位置制御部の機能を果たす点、当該システムは上記ユーザ端末を介して国内から利用することできるものであり、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現している点、及び、その国内における利用は、控訴人(被上告人)が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るものである点を総合考慮すると、被控訴人(上告人)によるシステムの生産行為は、我が国の領域内で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる、と判断した。

[裁判所の判断]
『4(1) 我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められるが(最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)、電気通信回線を通じた国境を越える情報の流通等が極めて容易となった現代において、・・・(略)・・・システムの構成の一部であるサーバが我が国の領域外に所在する場合に、我が国の領域外の行為や構成を含むからといって、常に我が国の特許権の効力が及ばず、当該システムを構築するための行為が特許法2条3項1号にいう「生産」に当たらないとすれば、特許権者に業として特許発明の実施をする権利を専有させるなどし、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に沿わない。そうすると、そのような場合であっても、システムを構築するための行為やそれによって構築されるシステムを全体としてみて、当該行為が実質的に我が国の領域内における「生産」に当たると評価されるときは、これに我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はないというべきである。
(2) 本件配信は、プログラムを格納したファイル等を我が国の領域外のウェブサーバから送信し、我が国の領域内の端末で受信させるものであって、外形的には、本件システムを構築するための行為の一部が我が国の領域外にあるといえるものであり、また、本件配信の結果として構築される本件システムの一部であるコメント配信用サーバは我が国の領域外に所在するものである。しかし、本件システムを構築するための行為及び本件システムを全体としてみると、本件配信による本件システムの構築は、我が国所在の端末を使用するユーザが本件各サービスの提供を受けるため本件各ページにアクセスすると当然に行われるものであり、その結果、本件システムにおいて、コメント同士が重ならないように調整するなどの処理がされることとなり、当該処理の結果が、本件システムを構成する我が国所在の端末上に表示されるものである。これらのことからすると、本件配信による本件システムの構築は、我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程としてされ、我が国所在の端末を含む本件システムを構成した上で、我が国所在の端末で本件各発明の効果を当然に奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係において、前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はないといえる。そして、被上告人が本件特許権を有することとの関係で、上記の態様によるものである本件配信やその結果として構築される本件システムが、被上告人に経済的な影響を及ぼさないというべき事情もうかがわれない。そうすると、上告人は、本件配信及びその結果としての本件システムの構築によって、実質的に我が国の領域内において、本件システムを生産していると評価するのが相当である。
以上によれば、本件配信による本件システムの構築は、特許法2条3項1号にいう「生産」に当たるというべきである。』

[コメント]
本判決は、国外に存在するサーバを構成要素とするシステムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号にいう「生産」に該当し得ることを示した点で、重要な判決である。
知財高裁(控訴審)は、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについて判断する際の事情として、(1)当該行為の具体的態様、(2)当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、(3)当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、及び(4)その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響、の四点を指摘した。
最高裁は、判決において、本件配信による本件システムの構築は、国内ユーザによる各ページへのアクセスによって行われ、コメント同士が重ならないように調整する処理の結果が、本件システムを構成する我が国所在の端末上に表示される点を指摘した。また、最高裁は、システムの構築が、被上告人に経済的な影響を及ぼさないという事情もうかがわれない点も併せて指摘した。これらの指摘は、知財高裁が指摘した四点と対応する。今後、問題となるシステムの構築行為を全体的に考察する際は、上記(1)~(4)の事情に基づいた考察がなされるといえる。
また、プログラム等の配信行為が「電気通信回線を通じた提供」にあたるかが争点となった、本件の当事者による事件(最高裁令和5年(受)第14号特許権侵害差止等請求事件同7年3月3日第二小法廷判決)でも同様の指摘がされている。これに鑑みると、上記(1)の具体的態様を考慮する上では、本件システムを構築する本件配信の制御が日本国の領域内で行われているか、及び、本件システムの構築によって提供されるサービスが日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものであるかが、重要な論点となると考えられる。
以上
(担当弁理士:廣田 武士)

令和5年(受)第2028号「コメント配信システム」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ