IP case studies判例研究
侵害訴訟等
令和5年(ワ)第70615号「車両誘導システム」事件
名称:「車両誘導システム」事件
債務不存在確認請求事件
東京地方裁判所:令和5年(ワ)第70615号 判決日:令和7年2月18日
判決:請求認容
特許法70条
キーワード:文言侵害
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/013/094013_hanrei.pdf
[概要]
原告の債務不存在確認請求(本訴)が一部認容されたうえで、原告の設備は被告の特許発明の技術的範囲に属さない、と判断され、被告の特許侵害に基づく損害賠償請求(反訴)が退けられた事件。
[本件発明2]
2A 有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに設置されている、ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステムであって、
2B 前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに出入りをする車両を検知する第1の検知手段と、
2C 車両に搭載されたETC車載器とデータを通信する通信手段と、
2D 前記通信手段によって受信したデータを認識して、ETCによる料金徴収が可能か判定する判定手段と、
2E 前記判定手段により判定した結果に従って、ETCによる料金徴収が可能な車両を、ETCゲートを通って前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに入る、または前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアから出るルートへ誘導し、ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口へ誘導する誘導手段を備え、
2F 前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合、前記車両が通過した後に、第1の遮断機を下ろすことにより、進入した車両のバック走行、逆走及び後続の車両の進入を防ぐことを特徴とする、
2G システム。
[主な争点]
構成要件2Eの充足性について
[裁判所の判断]
構成要件2Eの充足性について、以下のように判示された。
『以上によれば、構成要件2Eの「ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口へ誘導する誘導手段」とは、ETC車専用出入口ごとに設置された誘導手段であって、ETCによる料金徴収が不可能な車両がETC車用レーンに進入してきた場合に、当該車両をETC車用レーンから離脱させ、再度当該車両が進入したETC車専用出入口の手前へ戻るレーンへ誘導するか、又は同ETC車専用出入口が設置された有料道路料金所やサービスエリア又はパーキングエリアと同じ有料料金所やサービスエリア又はパーキングエリアに設置された一般車両出入口へ誘導するものであると解される。』
『(イ)原告各設備へのあてはめ
a 「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート」「へ誘導する誘導手段」について
前提事実(7)のとおり、原告各設備においては、ETC車載器との無線通信が不能又は不可の場合、すなわち、ETCによる料金徴収が不可能な場合に、インターホンによる係員との通話等を通じて、課金等処理を行い、係員が手動操作によって、①発進制御機1の開閉バーと、④発進制御機2又は⑤発進制御機3の開閉バーのいずれかを、同時に開くとともに、⑧路側表示器に「通行可」の表示又は「退出路」及び矢印の表示がされることにより、車両はレーンbを経由してレーンc又はレーンdを通行する。そうすると、原告各設備においては、ETC車載器との無線通信が不能又は不可の場合、すなわち、ETCによる料金徴収が不可能であっても、インターホンによる係員との通話等の結果、課金等処理を行うことができた車両については、レーンcに誘導される場合もあるといえるものの、レーンdに誘導される車両は、上記処理を行うことができなかった車両と解され、当該車両は、ETC車載器との無線通信が不能又は不可の場合、すなわち、ETCによる料金徴収が不可能な車両であるから、原告各設備は、ETCによる料金徴収が不可能な車両につき、①発進制御機1、⑤発進制御機3及び⑧路側表示器により、レーンdに誘導しているといえる。
しかし、他方で、前提事実(7)アのとおり、原告設備1-1において、レーンdは、一般道路に接続してはいるものの、一般道路に合流するためだけの道路であって、レーンdを通行するに至った車両は、再度、進入してきたETC車専用出入口の手前に戻るものではなく、原告設備1―1を構成する各発進制御機や⑧路側表示器によって、ETC車専用出入口手前に導かれるわけではない。したがって、「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート」「へ誘導」しているとはいえない。
次に、原告設備1-2についてみても、前提事実(7)イのとおり、レーンdは、原告設備1-2が設置された横手北SICより進行方向先の地点の高速道路に合流するため、レーンdを通行するに至った車両が、再度、進入してきたETC車両専用出入口へ戻ることは不可能であるから、レーンdが「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート」に該当しないことは明らかである。そして、原告設備2-1ないし2-4についてみても、前提事実(7)ウないしカのとおり、いずれもレーンdは一般道路か高速道路に併設されたパーキングエリア内の道路に合流するだけであって、レーンdを通行するに至った車両が一般道路ないしパーキングエリア内の道路に合流しても、再度、進入してきたETC車専用出入口手前に導かれるわけではないから、「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート」「へ誘導」しているとはいえない。
よって、原告各設備が「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート」「へ誘導する誘導手段」を有していると認めることはできない。』
『これに対し、被告は、原告設備1-1及び原告設備2-1ないし2-4について、レーンdから一般道路ないしパーキングエリア内の道路に合流した車両は、Uターンすれば進入してきたETC車専用出入口に戻ることが可能であるから、レーンdへ誘導する誘導手段は、
「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート」「へ誘導する誘導手段」に当たると主張する。
しかし、誘導とは、目的に向かっていざない導くことであるところ、前提事実(7)のとおり、原告各設備内にUターンをするよう示唆する標識等は存在しておらず、Uターンをするか否かは運転者の意思に委ねられているものであって、そのような運転者の意思のみに基づく運転操作による車両の通行について、誘導によるものと評価するのは無理がある。
以上によれば、原告各設備は、いずれも「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート」「へ誘導する誘導手段」(構成要件2E)を備えていると認めることはできないというべきである。』
『b 「一般車用出入口へ誘導する誘導手段」について
前提事実(6)のとおり、原告各設備は、いずれも一般車用出入口が存在しないSICに設置されており、当該車両が進入したETC車専用出入口が設置された有料道路料金所やサービスエリア又はパーキングエリアと同じ有料料金所やサービスエリア又はパーキングエリアに設置された一般車両出入口は存在しない以上、車両を「一般車用出入口へ誘導する」ということ自体が想定できない。したがって、原告各設備は、構成要件2Eの「一般車用出入口へ誘導する誘導手段」を備えているとは認められない。
これに対し、被告は、無線通信が不能又は不可の車両は、レーンdを通行した上で、隣接する他のインターチェンジの一般車用出入口を利用することが可能であり、無線通信が不能又は不可の車両が隣接する他のインターチェンジの一般車用出入口を利用することは、当業者の技術常識であるから、隣接する他の一般車用出入口は、構成要件2Eの「一般車用出入口」に含まれており、レーンdは隣接する他の一般車用出入口に間接的に誘導していると主張する。
しかし、ETC車載器を搭載しておらず無線通信が不能な車両は、SICを利用できないため、隣接する他のインターチェンジの一般車用出入口を利用することが自明であるとしても、前記のとおり、本件親出願明細書上、ETC車用レーンから離脱することができる手段として、当該ETC車用レーンから分岐するレーン以外が開示又は示唆されているとは認められないし、誘導のための設備についても、遮断機の開閉と表示パネルによる表示は開示されているものの(【0038】)、それ以外の設備については開示も示唆もされていないことからすると、【図11】に示される実施形態に接した当業者において、構成要件2Eの「一般車用出入口」には、【図11】に示される実施形態に記載されていない、当該SICとは異なる場所に別の施設として設置されている一般車用出入口が含まれるものと理解することはできないというべきである。また、仮に、隣接する他の一般車用出入口を構成要件2Eの「一般車用出入口」に含むと解したとしても、前記(ア)のとおり、構成要件2Aにおいて、「有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに設置されている」「システム」と規定されおり、構成要件2Eにおいて、上記「システム」が「一般車用出入口へ誘導する誘導手段を備え」るものと規定されていることから、「一般車用出入口へ誘導する誘導手段」は、高速道路やサービスエリア又はパーキングエリアに「設置されている」上記「システム」を構成する設備として、高速道路やサービスエリア又はパーキングエリアに設置されていることが当然の前提となっているものと解される。したがって、一般車用出入口へ誘導する誘導手段自体は、原告各設備にそれぞれ設置されている必要がある。ところが、原告各設備は、ETCによる料金徴収が不可能な車両をレーンdに誘導する誘導手段を備えてはいるものの、レーンdは、一般道路もしくは高速道路に合流するのみであって、一般車用出入口へは合流せず、本件全証拠によっても、原告各設備において、原告各設備に隣接する他の一般車用出入口に誘導する標識等が存在するとは認められない。したがって、原告各設備が「一般車用出入口へ」「誘導する誘導手段」を備えているということはできない。
(ウ) 小括
以上によれば、原告各設備は、いずれも、構成要件2Eの「ETCによる料金徴収が不可能な車両を、再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口へ誘導する誘導手段を備え」ているとは認められず、構成要件2Eを充足するとはいえない。』
[コメント]
被告は、原告設備における、ETCによる料金徴収が不可能な車両をレーンdへ誘導する誘導手段が、「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口へ誘導する誘導手段」に当たる、と主張した。これに対し、本判決は、誘導とは、目的に向かっていざない導くことであるところ、原告設備におけるレーンdには、誘導する標識等が存在せず、運転者の意思のみに基づく運転操作によって「再度前記ETC車専用出入口手前へ戻る」か、又は、異なる場所の「一般車用出入口」に向かうことになるから、これを誘導によるものと評価できず、構成要件2Eを充足しないと判断した。本判決は妥当な判断であると考えられる。
以上
(担当弁理士:赤尾 隼人)
令和5年(ワ)第70615号「車両誘導システム」事件
Contactお問合せ
メールでのお問合せ
お電話でのお問合せ