IP case studies判例研究
侵害訴訟等
令和4年(ワ)第8985号「交差連結具」事件
名称:「交差連結具」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:令和4年(ワ)第8985号 判決日:令和7年9月30日
判決:請求認容
特許法70条、29項2項、100条1項、2項、101条1項、102条2項
キーワード:構成要件の充足性、間接侵害、容易想到性、動機付け、設計事項、推定覆滅
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94826.pdf
[概要]
本件明細書の記載に照らして構成要件B~Iの充足性を検討した結果、使用状態における被告製品が本件発明の技術的範囲に属するとし、また本件発明は無効にされるべきものと認められないとして、特許権者による権利行使が認められたものの、被告製品が顧客を誘引する差別化要因を有する点などを考慮し、特許法102条2項の算定による損害額の70%が推定覆滅された事例。
[本件発明(請求項1を引用する請求項4に係る発明)]
A 第一棒状体と、前記第一棒状体に対してそれぞれ交差する2本の第二棒状体とを連結する交差連結具であって、
B 前記第一棒状体を保持する第一保持部と、
C 前記第一保持部に対して相対変位可能に連結され、かつ、前記第二棒状体のそれぞれの軸方向に沿って対応する第二棒状体を挟み込んで保持する一対の第二保持部と、を備え、
D 前記第一保持部が、板状に形成されたベース板部を含み、
E 前記ベース板部が、前記第一棒状体の保持位置に対して板面に沿う方向の両側に設けられた一対の取付基部を有し、
F 一対の前記第二保持部の一方が一対の前記取付基部の一方に連結され、一対の前記第二保持部の他方が一対の前記取付基部の他方に連結され、
G 前記第一棒状体が、交差する2つの仮想平面の交線に沿って配設され、
H 2本の前記第二棒状体が、前記第一棒状体に対する交差姿勢で2つの前記仮想平面のそれぞれに沿って配置され、
I 一対の前記取付基部が2つの前記仮想平面に沿ってそれぞれ配置されている
J 交差連結具。
[主な争点]
本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2-3)
損害の有無及び額(争点3)
[裁判所の判断]
1.構成要件B及びCの充足性(争点1)について
『・・・(略)・・・被告は、①本件発明は、第一棒状体を保持する「第一保持部」と、第二棒状体を保持する「第二保持部」が、別個独立にそれぞれの棒状体を締結固定する保持部であることを要求するが、被告製品には「第一ユニット3」、「第二ユニット」などのまとまりのある構成は存在しないし、被告製品の二つの挟持板40及び二つの締結部材59は、原告のいう「第一ユニット3」と「第二ユニット」とで部材が共通している以上、被告製品においては、「第二保持部」から別個独立した「第一保持部」は存在しない・・・(略)・・・、③被告製品では、「第二保持部」を構成する挟持板40及び締結部材59が固定部材30の固定部35に対して固定されており、相対変位可能に連結されていないし、「第二保持部」を構成する連結部材5は、同じ「第二保持部」である挟持板40に対して回動可能に連結されているにすぎないから、「第二保持部」が相対変位可能に「第一保持部」に連結されているといえないと主張する。
前記①の主張につき、被告製品の「固定部材30、二つの挟持板40、40、及び二つの締結部材59、59からなる部分」は、場所的に近接して「第一棒状体」に相当する吊りボルト81を保持する機能(作用)を有し、「それぞれ連結部材5、挟持板40、及び締結部材59からなる一対の部分」は、場所的に近接して2本の「第二棒状体」に相当する2本の振止めボルト82を保持する機能(作用)を有するから、いずれもまとまりのある構成ということができる。両者は一部の部材を共有するものの、それぞれ独立して「第一棒状体」及び2本の「第二棒状体」を保持するものであるから、それぞれ「第一ユニット3」及び一対の「第二ユニット」との構成として特定することができる。そして、前記アのとおり、「第一保持部」と「第二保持部」が部材を共有してはならないとの限定がされているとはいえないから、被告製品の第一ユニット3と第二ユニットとが一部の部材を共有しているとしても、第二ユニットに対応する「第二保持部」から別個独立した第一ユニット3に対応する「第一保持部」が存在しないということはできない・・・(略)・・・。
前記③の主張につき、前記イのとおり、被告製品においては、それぞれの第二ユニットの一部を構成する連結部材5が、挟持板40と回動可能に連結される。挟持板40は第二ユニットと第一ユニット3とで共有されているが、前示のとおり、第一保持部と第二保持部が部材を共有してはならないとの限定がされているとはいえず、第二ユニットが第一ユニット3を構成する挟持板40に対して回動可能に連結されるといえるから、挟持板40及び締結部材59が固定部35に固定されるとしても、「第二保持部」が相対変位可能に「第一保持部」に連結されていると認められる。被告の主張は採用できない。』
2.構成要件G、H及びIの充足性(争点1)について
『・・・(略)・・・被告は、交差連結具をどのように使用するかは使用者次第であるし、使用状態における交差連結具の構成を特定するものであるとすれば、使用していない状態(販売時等の状態)の被告製品につき、本件発明の全ての構成要件を充足する実施行為は存在しない旨主張する。
構成要件G、H及びIは、本件発明に係る交差連結具の通常の使用態様における構成を特定するものであることは当業者にとって明らかであり、被告製品(使用状態)は、前記のとおり、通常の使用態様において、これらの構成要件を充足するといえる。一方、被告主張のとおり、使用していない状態においては、被告製品はこれらの構成要件を直接侵害するものとはいえない。しかし、証拠(甲12、乙6)によれば、商品カタログ等において、前記ア認定の使用態様、すなわち、別紙「被告製品説明書」の1(5)に示される使用状態と同じ態様で、被告製品の使用方法が説明されて、「締込みナット2箇所とも締付けてご使用ください。1箇所のみの締付けではボルトが固定されません。」、「本製品はそのままご使用いただけます。分解組立は行わないでください。」、「本製品の正規の使用目的、用途、方法以外に使用された場合には責任を負いかねます」などと記載されていることが認められる一方、経済的・商業的・実用的な他の具体的使用態様は認められないから、原告が予備的に主張するとおり、被告製品は、構成要件G、H及びIを充足する使用態様でのみ使用されているものということができる。そうすると、使用していない状態の被告製品は、構成要件G、H及びIを充足する被告製品(使用状態)の生産にのみ用いる物(特許法101条1号)に該当すると認められる。』
3.乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2-3)について
『・・・(略)・・・乙1発明と本件発明との相違点は、本件発明の第二保持部は、第二棒状体を挟み込んで保持するのに対し、乙1発明の斜め支持体3は、挿通孔付きの板片とその両側の2つのナットとを用いて長ボルトQを保持する点、すなわち、「挟み込み」の構成の有無である。
・・・(略)・・・
すなわち、本件発明は、第二棒状体の固定方法を挟み込みとすることで、単に保持操作を容易にしたというものではなく、第二棒状体の固定方法を挟み込みとすることで、仮保持状態での第二棒状体の軸方向の移動調整を可能、容易にするとともに、第二保持部そのものが第一保持部に対して相対変位可能に備えられていることも第二棒状体の位置ないし角度の調整にあわせて利用し、簡便な位置調整を可能とする構造を二重に備えることで、交差する2本の第二棒状体の位置調整を、従来技術よりも格段に容易にするという作用効果を生じさせ、もって、連結操作を容易にするという課題解決とした点に、その特徴があるものといえる。
この点、乙1発明と本件発明との相違点に関する前記アの検討によれば、乙1発明の長ボルトQの固定方法として、乙20発明に開示されている上記技術的事項を適用すれば、本件発明の構成に至ること自体は否定できないし、乙1発明及び乙20発明は、いずれも長尺棒状体の連結金具に関する発明であり、技術分野や課題の一部において共通するものとはいえる。しかしながら、本件発明の特徴は、上記のとおりであるところ、そのような一連の課題解決の着想につながる示唆等は、主引用発明である乙1発明に係る文献(乙1)のみならず、乙20発明に係る文献(乙20)にも記載がない。そうすると、乙1発明の構成に接した当業者において、乙1発明の長ボルトQの固定方法につき、上記のような課題解決や作用効果を企図して、乙20発明の技術的事項を適用するとの動機付けがあると認めることはできず、本件発明に容易に想到できたとはいえないものである。』
4.損害の有無及び額(争点3)について
『・・・(略)・・・上記パンフレットが「施工性UPの3つのポイント」としてまず1番目に挙げるのは、本件発明の「第一棒状体」に相当する吊りボルトをバネ式の挟込みで仮止めする機能を備える点である。・・・(略)・・・上記の点は、本件発明の技術的思想によらずして製品の差別化要因としている部分といえるし、仮止めの具体的方法としてバネを用いることで施工性を向上させることは、本件明細書にも言及のない技術的工夫であり、被告が権利を保有する特許発明(特許第7042459号、乙4)を実施するものでもある。
また、被告製品は、2か所の締付け操作をもって、2本の第二棒状体のみならず、第一棒状体も含めた計3本の棒状体の固定を可能とする構成を有するもので、「施工性UPの3つのポイント」の3番目として「締付け固定2箇所」が挙げられているのもこれを指すものである。これは、2本の第二棒状体の固定方法を挟込みとする点において、本件発明の構成を前提とするものではあるものの、これをもって、第一棒状体の固定方法まで兼ねさせるという面については、本件発明とは異なる技術的思想が具現化されているものといわざるを得ず、被告が権利を保有する特許発明(特許第7042459号、乙4)を実施するものでもある。
そして、被告製品は、これらの機能の総合によって、本件明細書の実施例とほぼ同じ構成を有する原告実施品1(乙27の1)と比べても、棒状体の位置調整を伴う施工をより容易にしたものであることは否定できない(乙27の1~4、弁論の全趣旨)。
・・・(略)・・・
オ 以上より、被告製品が、本件発明の実施以外の機能面で顧客を誘引する差別化要因を有し、総合的にも高い施工性を獲得しているほか、市場における競合品の存在も踏まえ、相当程度の推定覆滅を認めざるを得ない。
・・・(略)・・・
これら諸要素に加え、本件訴訟の経過も含めた諸般の事情を考慮し、本件においては70%の限度で損害額の推定が覆滅されると認めるのが相当である。』
[コメント]
侵害論(争点1)における構成要件G、H及びIの充足性に関する検討は、発明が使用状態を含む構造・形状で特定されているケースにおいて参考になると思われる。無効論(争点2)では、相違点に係る構成が公知である或いは一見して設計事項に見受けられるものであっても、それに置き換えるのが容易であるというには動機付けが必要であるとして、定石通りに判断されている。また、被告製品は、本件発明とは異なる技術的思想を含むものであり、これを実施形態とする出願が権利化されている。損害論(争点3)では、被告製品における独自の技術的工夫が考慮され、特許法102条2項による損害額の70%が推定覆滅された。
以上
(担当弁理士:椚田 泰司)
令和4年(ワ)第8985号「交差連結具」事件
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