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令和6年(ワ)第70139号「ランプ」事件

名称:「ランプ」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:令和6年(ワ)第70139号 判決日:令和7年9月10日
判決:請求認容
特許法70条
キーワード:構成要件の用語の解釈
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94882.pdf

[概要]
本件発明の「熱移送手段」が「前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置され」と機能的に記載されており、明細書の記載を参酌して、「熱移送手段がLEDモジュール及び筐体と熱的に接続されている」と解釈し、被告製品が構成要件を充足するとして、侵害が成立すると判断された事例。

[本件発明1-1]
1A 光源であるLEDモジュールと、
1B 熱移送手段と、
1C 配光手段としての筒状リフレクタと、
1D 開口部を有する筐体と、
1E 光透過性カバーとを含み、
1F 前記LEDモジュールは、複数のLEDと、前記複数のLEDを実装する実装面を有するLED基板とを含み、
1G 前記筒状リフレクタは、その軸方向が前記LEDモジュールに対し垂直で、かつ、前記LEDモジュールの光照射側に配置され、
1H 前記筐体の内部に、前記LEDモジュールおよび前記筒状リフレクタが配置され、
1I 前記筐体の開口に、前記光透過性カバーが配置され、
1J 前記LEDモジュールは、前記筐体内において、前記筐体と離れて配置され、
1K 前記熱移送手段は、前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置されていることを特徴とする、
1L ランプ。
[本件発明2-1]
2A 光源であるLEDモジュールと、
2B 熱移送手段と、
2C 配光手段としての円筒状リフレクタと、
2D 開口部を有する筐体と、
2E 光透過性カバーとを含み、
2F 前記LEDモジュールは、複数のLEDと、前記複数のLEDを実装する実装面を有するLED基板とを含み、
2G 前記円筒状リフレクタは、その軸方向が前記LEDモジュールに対し垂直に配置され、
2H 前記筐体の内部に、前記LEDモジュールおよび前記円筒状リフレクタが配置され、
2I 前記筐体の開口に、前記光透過性カバーが配置され、
2J 前記LEDモジュールは、前記筐体内において、前記筐体と離れて配置され、
2K 前記熱移送手段は、前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置され、
2L 前記筐体は、前記LEDモジュールと配線で接続される接続部を有することを特徴とする、
2M ランプ。

[主な争点]
1 構成要件1K及び2Kの充足性(争点1)
2 被告製品が本件各発明の作用効果を奏せず、技術的範囲に属しないといえるか(争点2)

[裁判所の判断]
『(2)上記(1)によれば、本件発明1-1の技術的意義は次のとおりである。本件発明1-1は、LEDランプを用いた閃光装置におけるLEDモジュールの放熱について、閃光装置に用いるランプには重量の規格があるため、LEDモジュールの放熱を促進するために放熱用のフィンをLEDランプ内に設置することによる重量増は好ましくないという課題があるところ、これを解決するため、LEDモジュールが、筐体内において、筐体と離れて設置され、熱移送手段が、筐体内のLEDモジュールの熱を筐体に放熱することができるように配置されている構成を採用したものであり、これにより、LEDランプ内に放熱ファン等を設置することによる重量増を抑制するとの効果を奏するものである(【0004】~【0008】、【0030】)。』
『2 争点1(構成要件1K及び2Kの充足性)について
(1)「熱移送手段は、前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置されている」(構成要件1K)の意義について
本件発明1-1に係る特許請求の範囲には、「熱移送手段」について、「(筐体内において筐体と離れて配置された)前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置されている」(構成要件1J及び1K)ことが記載され、「熱移送手段」が、LEDモジュールの熱を移送する機能を有することを理解することができるが、その具体的な構成を特定する記載はない。
そこで、本件明細書の記載を考慮するに、本件明細書には、発明を実施するための形態として、例えば、熱移送手段が熱伝導部と放熱部とを有し、熱伝導部はLEDモジュールの熱が伝導されるように配置され、放熱部は筐体にLEDモジュールの熱を放熱できるように配置されていること(【0010】)、例えば、放熱部が、熱移送手段の一端に形成され、熱移送手段の他端はLEDモジュールと熱的に接続され、放熱部が筐体と熱的に接続されていること(【0011】、【0012】)が、また、実施形態1として、熱移送手段は、公知の熱移送手段を用いることができ、例えば、公知の熱伝導素材で形成された部材(熱伝導部材)、ヒートパイプ、これらの組合せ等が挙げられ、熱移送手段はLEDモジュールの熱を筐体に放熱できるように配置されていればよいこと(【0024】、【0025】)、熱移送手段が熱伝導部と放熱部を有する構成としてもよく、熱伝導部と放熱部を、熱的に接続され、一体的に形成された別部材とすることや、熱移送手段における熱伝導部と放熱部の位置に制限がないこと(【0031】、【0032】)が記載されている。
以上によれば、「熱移送手段」は、公知の熱伝導素材で形成された部材(熱伝導部材)のみならず、複数の熱伝導部材が一体的に形成されたものでもよく、「熱移送手段は、前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置されている」とは、このような熱移送手段がLEDモジュール及び筐体と熱的に接続されていることにより、LEDモジュールの熱を筐体に放熱できるように配置されていることを意味するものと解される。』
『(2)被告製品の充足性
被告製品の放熱板及びヒートスプレッダは熱伝導素材で形成された部材であり、接着剤で接着されているから(弁論の全趣旨)、放熱板及びヒートスプレッダは、熱伝導部材が一体的に形成されたものといえる。
そして、放熱板の表面の一部はCOB型LEDモジュールと接触し、放熱板の裏面の中央部はヒートスプレッダと接触し、放熱板の裏面の端部が筐体と接触するように配置され、ヒートスプレッダは、放熱板と接触する面と反対側の面が筐体と接するように配置されている(構成l及びm)。そうすると、放熱板は、その表面の一部がCOB型LEDモジュールと接触し、裏面の中央部はヒートスプレッダを介して筐体に接し、裏面の端部は筐体と接しているから、一体的に形成された放熱板及びヒートスプレッダは、筐体と熱的に接続されているといえる。
以上によれば、放熱板及びヒートスプレッダは、COB型LEDモジュールの熱を筐体に放熱することが明らかであるから、放熱板及びヒートスプレッダは「熱移送手段」に当たり、熱移送手段は、「前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置されている」といえる。
したがって、被告製品は、構成要件1Kを充足する。』
『(3)被告の主張について
被告は、本件明細書が、ヒートスプレッダと熱移送手段の語を区別して用いていること、ヒートスプレッダがLEDモジュールと熱移送手段との間に配置された構成が記載され(【0014】、【0025】)、ヒートスプレッダが、LED基板の実装面の反対側に配置され、熱移送手段がヒートスプレッダと熱的に接続されていることが好ましいことが記載されている(【0034】)から、ヒートスプレッダが放熱板と筐体の間に配置された被告製品は、「熱移送手段は、前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置されている」に当たらないと主張する。しかし、「熱移送手段」の解釈は上記(2)のとおりであり、被告の指摘する本件明細書の記載は、実施形態を示したものにすぎず、ヒートスプレッダが熱移送手段に当たらないことや、ヒートスプレッダが放熱体と筐体との間に配置された構成が本件発明1-1の技術的範囲に含まれないことを示すものとはいえないから、被告の主張を採用することはできない。
また、被告は、被告製品において、COB型LEDモジュールの熱が筐体に伝熱するか明らかではないなどと主張するが、温度の高い物体と低い物体を合わせたときには、高温側から低温側に向かって熱エネルギーが流れることからすれば(甲13)、被告製品において、COB型LEDモジュールの熱は筐体に伝熱していることを推認することができ、被告の主張を採用することはできない。』
『3 争点2(被告製品が本件各発明の作用効果を奏せず、技術的範囲に属しないといえるか)について
(1)被告は、被告製品が放熱用のフィンを有するから、放熱用のフィンの設置による重量増を抑制するという本件発明1-1の課題を解決できていないことを理由に、本件発明1-1の効果を奏しておらず、本件発明1-1の技術的範囲に属するとはいえないと主張する。
(2)そこで検討するに、本件発明1-1は、放熱用のフィンをLEDランプ内に設置することによる重量増は好ましくないという課題に対し、LEDランプ内に放熱ファン等を設置することによる重量増を抑制するとの効果を奏するというものである(前記1(2))。
被告製品は、前記2(2)説示のとおり、「熱移送手段は、前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置されている」との構成を有しているから、本件発明1-1の効果を奏するものといえる。本件発明1-1は、筐体の外部に放熱用のフィンが設置されることによる重量増を課題とするものではないから、被告製品の筐体の外部に放熱用のフィンが設置されていることは、上記判断を左右するものではない。』

[コメント]
本件発明の「熱移送手段」が「前記LEDモジュールの熱を前記筐体に放熱できるように配置され」と機能的に記載されている。審査基準によれば、機能的記載(作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載)は、原則として、そのような機能等を有する全ての物を意味していると解釈する、と規定されている。
本判決においては、明細書の記載が参酌されており、明細書においては機能の意味、機能を実現する複数の実施例および複数の変形例が記載されており、「熱移送手段がLEDモジュール及び筐体と熱的に接続されている」と解釈された。審査基準に基づく判断においても同様の結果が得られると考えられ、妥当な判決と考える。
機械系発明においては機能的記載が必須ではないが、ソフトウェア系発明では機能的記載が必須となることが多いために、請求項に機能的記載を記載する場合には、定義と豊富な実施例又は変形例を記載することを心掛けたい。

以上
(担当弁理士:坪内 哲也)

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