IP case studies判例研究

令和6年(ワ)第70478号「モニタリングシステム」事件

名称:「モニタリングシステム」事件
特許権侵害に基づく損害賠償請求事件
東京地方裁判所:令和6年(ワ)第70478号 判決日:令和7年10月7日
判決:請求棄却
特許法29条2項、104条の3
キーワード:進歩性、動機付け、公然実施、無効の抗弁
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95456.pdf

[概要]
本件各発明は原告による公然実施発明に基づいて容易に発明することができたものと判断され、本件各発明が特許無効審判により無効にされるべきものと認められた結果、原告による特許権の行使が否定された事例。

[本件発明1]
1A 見守り者用端末のユーザにより設定されたインターバル情報を前記見守り者用端末から受信し、被見守り者用端末に送信する第1手段と、
1B 前記インターバル情報に応じたインターバルで前記被見守り者用端末から送信される、前記被見守り者用端末の位置情報を受信する第2手段と、
1C 前記被見守り者用端末からの位置情報に基づいて、行動範囲を決定する第3手段と、
1D 前記被見守り者用端末からの位置情報と、前記行動範囲と、の位置関係に基づく通知を前記見守り者用端末に送信する第4手段と、を備え、
1E 前記第2手段は、前記インターバル情報に応じたインターバルで前記被見守り者用端末から送信される、前記被見守り者用端末のバッテリの残量を示す情報を受信し、
1F 前記第4手段は、前記残量に関する情報を前記見守り者用端末に送信する、
1G モニタリングシステム。

[主な争点]
1 「GPS BoT」に基づく進歩性欠如(争点2-1)

[裁判所の判断]
『(2) 本件各発明と乙38発明との対比
・・・(略)・・・本件発明1と乙38発明1、本件発明2と乙38発明2、本件発明3と乙38発明3とは次の相違点38において相違し、その余の点において一致するものと認められ、この点については当事者間に争いがない。
(相違点38)
本件各発明では、見守り者用端末のユーザによって設定されたインターバル情報に応じたインターバルで、被見守り者用端末の位置情報及びバッテリ残量情報がモニタリングシステムに送信されるのに対し、乙38発明では、位置情報が見守り者用端末のユーザによって設定されたインターバル情報に応じたインターバルでモニタリングシステムに送信され、また、バッテリ残量情報がモニタリングシステムに送信されるが、バッテリ残量情報の送信のタイミングが不明である点。
(3) 相違点の容易想到性について
ア 技術事項の認定
特許5078310号公報(乙20。平成24年11月21日公開。)には、携帯電話の使用者(被保護者)の安否を確認するためのシステムに関し(【0001】【0006】)、被保護者の持つ携帯電話より送信される異常なし通知メールに送信時の携帯電話の位置情報及び電池残量が含まれる構成(【0062】【0068】)が記載されている。
以上によれば、上記公報には、被保護者の安否を確認するためのシステムにおいて、被保護者の端末が、その位置情報及びバッテリ残量情報を同時に送信するという技術事項が記載されていると認めることができる(以下「本件技術事項」という。)。
イ 相違点38の容易想到性について
乙38発明は被見守り者が所持する端末を用いた見守りのためのモニタリングシステムであるのに対し、本件技術事項は、被保護者が所持する端末を用いた安否確認システムにおいて同端末が位置情報及びバッテリ残量情報を送信するタイミングに関する技術事項であるから、両者の技術分野は共通している。・・・(略)・・・乙38発明と本件技術事項は、位置情報とバッテリ残量情報の送信のタイミングの設定という共通の課題を有し、いずれも被見守り者ないし被保護者が所持する端末が位置情報及びバッテリ残量情報を送信するという点で、共通の作用及び機能を有する。
そして、乙38発明において、インターバル情報に応じて位置情報が送信されるものの、バッテリ残量情報が送信されるタイミングは不明なのであるから、乙38発明に接した当業者は、バッテリ残量情報を送信するタイミングについて、位置情報と同時に行うという本件技術事項を組み合わせる動機付けがあるということができ、組み合わせることについての阻害要因も見当たらない。
したがって、乙38発明に本件技術事項を適用して相違点38に係る構成とすることは、当業者において容易に想到し得たものといえる。
(4) 原告の主張について
原告は、①乙38発明は、継続的に位置情報の取得及び送信を行うため、バッテリの消費を抑えるという課題を有するところ、単位時間当たりの変化量が小さいバッテリ残量情報を低頻度で送信することによって、バッテリの消耗を抑えられるのは明らかであるから、本件技術事項を乙38発明に適用する動機付けがない、②乙38発明に、本件技術事項を組み合わせても、当業者は相違点38に係る構成に想到しないと主張する。
しかし、①について、本件技術事項も携帯端末が継続的に位置情報の取得及び送信を行う技術に関するものであって、バッテリの消費を抑えるという課題があることは乙38発明と共通するといえるし、乙38発明におけるバッテリ残量情報の送信頻度は不明なのであるから、原告の指摘する点は、乙38発明に本件技術事項を適用する動機付けを否定する理由にはならない。
また、②について、インターバル情報に応じて位置情報が送信され、不明なタイミングでバッテリ残量情報が送信される乙38発明に、バッテリ残量情報を位置情報と同時に送信するという本件技術事項を組み合わせることで、インターバル情報に応じて位置情報とバッテリ残量情報が送信されるという相違点38に係る構成に想到するといえる。・・・(略)・・・
3 小括
以上のとおりであるから、本件各発明に係る特許は、特許無効審判により無効にされるべきものと認められ、原告は、被告に対し、本件特許権の権利を行使することができない。』

[コメント]
原告は、バッテリ消費を抑えるためにはバッテリ残量情報を低頻度で送信するのが合理的であり、本件各発明において、バッテリ残量情報と位置情報を同時送信する動機付けはないと主張した。しかしながら、各請求項で特定された事項と、異常なし通知メールに携帯電話の位置情報及び電池残量を含める本件技術事項との差異は乏しく、本件各発明は、乙38発明と本件技術事項に基づいて容易に想到し得たものであるとの判断は妥当であろう。また本件は、被告が原告の公然実施発明を的確に指摘した点が特徴的であり、特許権者としては、自身の実施行為が無効理由となり得ることも踏まえて、訴訟の提起を検討することが重要である。
以上
(担当弁理士:廣田 武士)

令和6年(ワ)第70478号「モニタリングシステム」事件

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