IP case studies判例研究

令和6年(ワ)第6010号「ネットワークブートシステム」事件

名称:「ネットワークブートシステム」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:令和6年(ワ)第6010号 判決日:令和8年3月12日
判決:請求棄却
特許法70条
キーワード:構成要件の充足性、均等侵害の成否
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95706.pdf

[概要]
被告製品では、書き込み要求信号を受けた後に、更新前のデータが残り、かつ、更新後のデータが使用されるときは、更新前のデータが使用されないものの、更新前のデータを使用しないように制御されているとまではいえないとして、被告製品は構成要件を充足しないと判断された事例。

[本件発明]
A クライアント端末上で動作するオペレーティングシステムを提供するネットワークブートサーバと、物理的な記憶装置を備えたクライアント端末とがネットワークを通じて接続され、
B 前記クライアント端末は、前記オペレーティングシステム起動中に必要なデータを一時的に保存することができる物理メモリと、前記ネットワークを介して前記サーバにアクセスするためのネットワークインターフェースとを備えていると共に、
C 前記オペレーティングシステムは、
C1 前記ネットワークインターフェースを駆動するためのネットワークドライバと、
C2 前記クライアント端末のローカルバスに対するアクセスを前記ネットワークに対するアクセスに変換するためのフィルタドライバと、
C3 前記記憶装置を駆動するためのリードキャッシュドライバを備えており、
D 前記リードキャッシュドライバが、
D1 前記クライアント端末から読み出し要求信号を受けた際には前記フィルタドライバによって前記サーバから読み出されたデータを前記記憶装置の読み出しキャッシュ領域にキャッシュデータとして保存し、
D2 前記読み出しキャッシュ領域に対して書き込み要求信号を受けた際には
D2-1 書き込み要求信号を受けたことを記憶すると共に
D2-2 その領域に対するキャッシュデータを使用しないように制御することを特徴とする
E ネットワークブートシステム。

[主な争点]
被告製品が、本件特許の技術的範囲に属するか(争点1)
構成要件D2-2を充足するか(争点1-8)
構成要件D1、D2及びD2-2における「読み出しキャッシュ領域」に関し、被告製品の構成が均等なものか(争点1-9)

[原告の主張]
『構成要件D2-2は、書き込み要求信号を受けた読み出しキャッシュ領域に対し、キャッシュデータを使用しないように制御することを定めている。
被告製品においては、特定のセクタに対してデータの書き込み要求があった場合、当該セクタのデータが記録されたブロックを特定し、データ処理をしたうえで、記憶領域内の別のブロックを選択して、書き込み要求があったセクタのデータが上書きされた更新ブロックデータを、当該別のブロックに記録する。その結果、以後、更新ブロックデータが使用されることになるから、書き込み前のブロックデータは使用されないこととなる。実際、読み出しデータに対して書き込みが行われると、マッピングテーブルの所定のアドレスの値が書き換えられ、書き込み要求信号を受けたことが記録されており、書き込み前のデータのブロックがそのまま記録されている。
このような制御は、「その保存されている前記サーバから読み出されたブロックデータを使用しないようにする」ものであるから、被告製品は、構成要件D2-2を充足する。』

[被告の主張]
『被告製品では、特定のセクタへのデータ書き込み要求を受けた場合、当該セクタにキャッシュデータが存在すれば、そのデータを含むブロックデータを全て読み出してデータ処理し、書き込み要求のあったセクタのデータが上書きされて更新された更新ブロックデータが空きブロックに保存される。また、キャッシュデータが存在しないときは、書き込み要求信号に従ってデータが書き込まれる。
一方、本件発明では、読み出しキャッシュ領域に対して書き込み要求信号を受けた場合、当該読み出しキャッシュ領域のキャッシュデータは使用しないように制御されるが、上記のとおり、被告製品では、更新ブロックデータを作成する過程で、書き込み要求信号を受けたキャッシュ領域のデータを使用している上に、サーバから読み出したデータが保存されていないブロックに対して書き込み要求信号があった場合、当該ブロックにデータが書き込まれるものの、当該ブロックのデータに対し、使用されないように制御することはない。
被告製品においては、世代管理のため、更新されたデータを別ブロックに保存し、更新ブロックデータが保存されたブロックの位置情報を更新するが、一方で、書き込み要求があったキャッシュ領域に対するキャッシュデータを「使用しないように制御」することは行っていない。
よって、被告製品は構成要件D2-2を充足しない。』

[裁判所の判断]
1.争点1-8(構成要件D2-2を充足するか)について
『・・・(略)・・・被告製品における特定のセクタへのデータ書き込み要求を受けた場合におけるデータの書き込みに関する挙動は、次のようなものであると認められる。
ア 当該セクタにキャッシュデータが存在する場合
既存のデータを含むブロックデータを全て読み出してデータ処理し、書き込み要求のあったセクタのデータが上書きされて更新された更新ブロックデータを、元のブロックとは異なるアドレスにある空きブロックに保存する。元のブロックのデータは、書き込みがされないまま、世代管理のために保存され続ける。
クライアント端末が、データにアクセスする際に参照される、アクセス先のアドレスが記録されたマッピングテーブルのアクセス先アドレスの値を、更新ブロックデータが保存されたアドレスに変更する。その結果、クライアント端末からは、更新ブロックデータが使用されることとなる。また、マッピングテーブルの所定のアドレスの値が変更されることで、当該ブロックに対し、サーバから取得したデータが書き込まれたか否かが区別できる。
イ 当該セクタにキャッシュデータが存在しない場合
書き込み要求信号に従ってデータが書き込まれる。
これからすると、被告製品では、データを管理する単位であるブロックごとに、サーバからのデータが書き込まれたか否かが区別でき、書き込みによってデータが更新されたときは、マッピングテーブルの値が更新されることで、クライアント端末は、更新後のデータが保存されたブロックを利用することとなることが認められる。
(3)構成要件D2-2との対比
構成要件D2-2は、このような書き込み要求信号を受けたか否かを明らかにすることにとどまらず、書き込み要求信号を受けた領域は、以後、「使用できないように制御すること」を定めているところ、被告製品において、そのような制御がされていると認めるに足りる証拠はない。
すなわち、被告製品では、既存データが更新された場合、既存データがそのまま保存されるとともに、更新後のデータが空きブロックに保存され、以後、マッピングテーブルの値が変更されるから、書き込み要求信号を受けたあとは、更新後のデータが使用されている。しかし、被告製品は、複数の環境を切り替えたり、世代管理をしたりする機能を提供しているところ(甲4ないし6)、このような機能を実現するためには、更新前のデータを使用していた環境に復元するために、当該データを残しつつ、更新後のデータを使用する構成を備えることを要すると解される。したがって、書き込み要求信号を受けた後に、更新前のデータが残り、かつ、更新後のデータが使用されるときは、更新前のデータが使用されないからといって、当該更新前のデータが、以後、読み込むことも禁止されているとは認められない。
(4)小括
以上から、被告製品が、書き込み要求信号を受けた「領域に対するキャッシュデータを使用しないように制御する」構成を備えているとは認められないから、被告製品は構成要件D2-2を充足しない。』

2.争点1-9(構成要件D1、D2及びD2-2における「読み出しキャッシュ領域」に関し、被告製品の構成が均等なものか)について
『(2)第1要件について
・・・(略)・・・本件発明は、クライアント端末上の記憶装置において、サーバから読み出されたデータが書き込み済みであるかを管理し、書き込み済みとなったデータの使用を禁止する構成を備えることで、サーバから取得した状態から一切変更が加えられていないコピーをクライアント端末の記憶装置内にキャッシュすることを確保し、サーバに対するネットワークアクセスを劇的に減らすこと(サーバに対するアクセスを要する事態を極限まで減少させること)を実現するものであると認められ、少なくともこの点が本件発明の本質的部分に該当することについては、当事者間で争いがない。
そうすると、構成要件D2-2に係る、書き込み要求信号を受けた領域に対し、その領域に対するキャッシュデータを使用しないように制御する構成は、本件発明における本質的部分であると認められ、この点を備えない被告製品と本件発明とは、その本質的部分において相違するものと認められる。』

[コメント]
原告は、被告製品について、書き込み要求を受けると、以後は更新データが使用されることになるから、更新前のデータ(既存データ)は使用されないこととなる、と主張したが、認められなかった。被告製品は複数の環境を切り替える機能を有しており、更新前のデータを使用していた環境に復元するために、更新データを別ブロックに保存しつつ、更新前のデータをそのまま残している、つまりは、更新前のデータは必要に応じて読み込まれる(使用される)、と解されたためである。
原告は、この判決を不服として2026年3月に知的財産高等裁判所へ控訴を提起しており、今後の展開にも注目したい。
以上
(担当弁理士:椚田 泰司)

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