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令和8年(ネ)第10002号「ワインセラー及び霜取り制御方法」事件

名称:「ワインセラー及び霜取り制御方法」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:令和8年(ネ)第10002号 判決日:令和8年6月17日
判決:控訴棄却
特許法101条2号
キーワード:均等侵害、間接侵害
判決文: https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-96687.pdf

[概要]
被告製品について、コンプレッサー再起動時の温度が加温ヒーター停止時よりも高いというだけでは、所定の温度に基づく制御を規定した構成要件を充足せず、文言侵害が成立しないと判断するとともに、パラメータ設定を変更すれば侵害品となり得る被告製品について、特許法101条2号の間接侵害が成立するためには、設定が変更される蓋然性及び被控訴人の認識が必要であるところ、これらが認められないとして間接侵害を否定した事例。

[特許請求の範囲]
[本件発明1]
A  コンプレッサーを使用した冷却方式を採用し、冷却サイクルによって冷却器に付着した霜を溶かす霜取り機能を有するワインセラーにおいて、
B  前記冷却器の近傍に配置され、冷却器周辺温度を検知する温度センサーと、
C  前記冷却器に付着した霜を溶かすために冷却器周辺温度を上昇させる加温ヒーターと、
D  所定のタイミングに達した場合に、前記コンプレッサーを停止するとともに前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度をチェックし、当該冷却器周辺温度に基づいて前記加温ヒーターを起動するか否かを判断する制御部と、を備え、
E1 前記制御部は、前記所定のタイミングで前記温度センサーにより検知された冷却器周辺温度が、前記冷却器に霜が付着する可能性のある温度として規定された「第1の温度」以下の場合に、前記加温ヒーターを起動し、
E2 前記加温ヒーターを起動した後の冷却器周辺温度が「第2の温度(「第1の温度」<「第2の温度」)」に達した場合に、前記加温ヒーターを停止し、
E3 さらに、前記加温ヒーターを停止した後の冷却器周辺温度が「第3の温度(「第2の温度」<「第3の温度」)」に達した場合に、前記コンプレッサーを再起動する、
F  ことを特徴とするワインセラー。

[争点]
1 争点1(構成要件E3の充足性)について
2 争点2(均等侵害の成否)について
3 争点3(間接侵害の成否)について

[裁判所の判断]
1 争点1(構成要件E3の充足性)について
『控訴人は、本件発明の本質は、加温ヒーターが停止した後、直ちにコンプレッサーを起動して冷却を開始するのではなく、あえて冷却開始を遅らせることで温度上昇を緩やかにして温度制御をしやすくし、ワインの劣化が生じないようにしつつ、冷却器上の露を落とす時間を確保した点にあるところ、控訴人の実験により、①イ号製品は、加温ヒーター停止時の温度が21℃、コンプレッサー再起動時の温度が23℃となり、②ロ号製品は、加温ヒーター停止時
の温度が4℃、コンプレッサー再起動時の温度が10℃となることが実際に確認されており、これは被告製品が温度上昇に応じて段階的に制御を行い、露滴下時間を確保していることを示しているから、被告製品は構成要件E3を充足すると主張する。
しかし、原判決を引用して説示したとおり、本件発明に係る特許請求の範囲の文言及び本件明細書の記載によれば、構成要件E3は、冷却器周辺温度が第2の温度に達した場合に加温ヒーターを停止し、その後、第2の温度より高い第3の温度に達した場合にコンプレッサーを再起動するというものであり、第2の温度及び第3の温度はいずれも所定の温度を指すと解されるのであって、単に加温ヒーター停止時の温度に比しコンプレッサー再起動時の温度が高ければ構成要件E3の構成を充足するものではない。加えて、原判決を引用して説示したとおり、控訴人の実験及び被控訴人の実験において得られた結果によれば、被告製品においては、加温ヒーターの停止とコンプレッサーの再起動が同時の(すなわち、両時点の温度が同じ)場合と、加温ヒーターの停止後にコンプレッサーが再起動する場合があり、後者の場合でもコンプレッサーが再起動する際の温度はまちまちであったというのであって、加温ヒーターを停止する温度より高い温度に達した場合にコンプレッサーを再起動するように制御されているという構成要件E3の構成を有すると認めることもできない。
したがって、控訴人の上記主張は採用できない。』

2 争点2(均等侵害の成否)について
『控訴人は、本件発明の本質的部分は、加温ヒーターが停止した後、直ちにコンプレッサーを起動して冷却を開始するのではなく、あえて冷却開始を遅らせることで温度上昇を緩やかにして温度制御をしやすくすることにより、①無駄なヒーター稼働を抑えつつ、②高湿度であることが求められるワインセラーにおいて、冷却器に多々付着しがちな霜を溶かしてその露を落とすための時間を十分確保し、③きめ細やかな温度制御によってワインの劣化が生じないようにすることにあるところ、被告製品は、①温度上昇に応じて段階的に制御を行う、②ヒーター停止後の露滴下時間を確保する、③ヒーター停止後からコンプレッサー再起動までのタイムラグを設けることで温度変化を緩やかなものにとどめワインの品質を保持するという本件特許と正に同一の技術的思想を実現しているから、均等の第1要件を充足していると主張する。
そこで判断すると、本件明細書(甲2の2)中の背景技術、発明が解決しようとする課題、発明の効果等の記載(原判決18~22頁参照)によれば、従来技術では得られないとされる加温ヒーター停止後の露滴下時間を確保するという本件発明の効果を奏するためには、加温ヒーターの停止後ある程度時間が経過した後にコンプレッサーを再起動させればよいから、この点を本件発明の本質的部分と解する余地がある。しかし、本件の証拠上認められる被告製品のコンプレッサーの再起動の状況は、上記1の実験結果のとおりであって、加温ヒーターの停止後ある程度時間が経過した後にコンプレッサーが再起動するよう制御されているとは認められない。
したがって、均等侵害をいう控訴人の主張も採用できない。』

3 争点3(間接侵害の成否)について
『(1) 特許法101条1号について
控訴人は、被告製品は、冷却器周辺温度を計測するセンサーという特異な物理的構成を備え、かつ、その検知温度に基づく制御パラメータを自由に変更可能なプログラムを組み合わせており、これは冷却器周辺温度をセンシングしてきめ細やかな霜取り動作をするという本件発明の実施を必然的なものとするのであって、仮に、被控訴人が本件特許を実施しないパラメータ設定をして被告製品を販売しているとしても、ワインの長期保存や再霜化のリスク、電力制約の観点から、被告製品が現在の設定のまま使用され続けることは、経済的・商業的・実用的にみて、ワインセラーの使用形態として成立しないから、被告製品は、本件特許の専用品となっているとみるべきであり、これを業として輸入した被控訴人の行為について特許法101条1号の間接侵害が成立すると主張する。
しかし、被告製品は、パラメータ設定を変更すれば本件特許権を侵害することになるとしても、これまで現在のパラメータ設定によるものとして一定数販売され、相応のシェアを獲得しているのであり(甲7、8、弁論の全趣旨)、現在のパラメータ設定のまま使用することに支障があるとはうかがわれない。したがって、被告製品には本件発明の実施以外の用途があると認められるから、特許法101条1号の間接侵害が成立するとはいえない。
(2) 特許法101条2号について
控訴人は、被告製品は、前面パネルにおけるパラメータを手動で設定変更するだけで本件特許権の侵害品となり得ることから、「その物の生産に用いる物」であって、「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であるところ、①被控訴人が控訴人と同じワインセラーメーカーとして市場のシェア1位・2位を争う競合他社であること、②被告製品はパラメータの手動操作
という極めて容易な方法によって直ちに本件特許権の侵害品に転化すること、③被控訴人が実際に被告製品の販売途中にパラメータを書き換えていること、④原告が販売する製品について一般消費者が偶発的にパラメータ設定を変更してしまう事例が現に発生していること、⑤被控訴人は本件訴訟が提起されてもなお被告製品の販売を継続するなどコンプライアンス上の問題があること、⑥被控訴人は、あえて控訴人と同一の製造委託先を選択し、基板に原告が販売する製品の製品番号が刻印されるほどの酷似した製品を輸入していることといった事情を総合すれば、被控訴人は、被告製品が本件発明の実施に用いられ、特許権侵害に利用される蓋然性が高い状況が現に存在することを認識・認容していたといえるから、特許法101条2号の間接侵害が成立すると主張する。
そこで判断すると、被告製品がパラメータの設定を変更することにより本件発明の実施に用いられる物になり得るとしても、これにつき間接侵害に基づく差止め等の請求を認めるためには、単に抽象的な可能性があるだけでは足りず、そのように変更される蓋然性があり、かつ、被控訴人がこれを認識していることを要する。ところが、被告製品は前述のとおり本件特許権を侵害しないものとして輸入及び販売されているのであり、被控訴人においてこれを変更したり、販売先に対してこれを変更するよう推奨ないし指示したりしていることは本件の証拠上一切うかがわれないから、上記の蓋然性があるとは認められない。
したがって、同号の間接侵害が成立するということはできない。』

[コメント]
本判決は、パラメータを手動で設定変更すれば本件特許権の侵害品となり得る被告製品に対する、特許法101条2号に定める間接侵害の是非について、『被告製品がパラメータの設定を変更することにより本件発明の実施に用いられる物になり得るとしても、これにつき間接侵害に基づく差止め等の請求を認めるためには、単に抽象的な可能性があるだけでは足りず、そのように変更される蓋然性があり、かつ、被控訴人がこれを認識していることを要する。』との判断基準を示したことは着目すべき点である。
また、均等侵害について、本判決は原判決と次に述べる違いを有しており、その点で興味深い。原判決では、本件発明の技術的意義に照らせば、本件発明の本質的部分(特許請求の範囲に記載された構成のうち従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)が、本件発明が備える、所定温度に基づく制御に関する構成要件(E1、E2及びE3)にあると捉えた。これに対し、本判決は、本件発明の本質的部分を、『加温ヒーターの停止後ある程度時間が経過した後にコンプレッサーを再起動させ』ること、すなわち、本件発明が備える、所定温度に基づく制御に関する構成要件から離れた抽象的な技術思想として捉える余地があることを示した。そのうえで、被告製品は、このように解された技術思想のように制御されているとは認められないと判断した。

以上
(担当弁理士:赤尾 隼人)

令和8年(ネ)第10002号「ワインセラー及び霜取り制御方法」事件

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