IP case studies判例研究
侵害訴訟等
平成23年(ワ)第19340号「ゴム貯蔵機器」事件
名称:「ゴム貯蔵機器」事件(特許権侵害差止等請求事件)
東京地方裁判所民事第29部:平成21年(ワ)第44391号
平成23年(ワ)第19340号
判決日:平成23年12月26日
判決:請求容認
特許法:70条、101条、102条
キーワード:特許発明の技術的範囲、用途限定、間接侵害、損害額の推定規定
[概要]
ゴミ貯蔵機器に関する特許権及び意匠権を有する原告が、被告による被告製品の輸入・販売等
が同権利を侵害するとして、被告に対し、差止・損害賠償を求めた事案である。
[本件発明](争点となる部分のみを掲載。下線部分は、争点となる部分を示す)
<本件発明1;請求項14>
A(A) ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合さ
れ回転可能に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,
B(B) 該ごみ貯蔵カセットは,
(B-1) 略円柱状のコアを画定する内側壁と,
C(B-2) 外側壁と,
D(B-3) 前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,
E(B-4) 前記内側壁の上部から前記外部壁に向けて延出する延出部であって,使用時に前記
ごみ貯蔵袋織りが前記延出部をこえて前記コア内へ引き出される延出部と,
F(B-5) 前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係
合するように,前記外側壁から突出する構成と,を備え,
G(C) 前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された,
(D) ごみ貯蔵カセット。
<本件発明2:請求項11>
(省略)
[被告製品(イ号物件)]
a ごみ貯蔵容器の上部に取り付けるためのごみ貯蔵カセットであり,
b ごみ貯蔵カセットは,
b-1 略円柱状のコアを画定する内側壁と,
b-2 外側壁と,
b-3 前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,
b-4 前記内側壁の上部から前記外側壁に向けて延出する延出部であって,使用時に前記ごみ貯
蔵袋織りが前記延出部をこえて前記コア内へ引き出される延出部と,
b-5 前記外側壁外周面の円周方向の等間隔の4箇所に欠け部を有する突出部と,を備える。
[主となる争点]
1)本件発明1の構成要件充足性(直接侵害)
原告の主張:構成要件A、F、Gを充足するゴミ貯蔵カセットは、「ゴミ貯蔵カセット回転装
置に係合され回転可能に据え付け、かつ、ゴミ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられる」との
用途等に限定されるカセットではない。
被告の主張:「ゴミ貯蔵カセット回転装置に係合され回転可能に据え付け、かつ、ゴミ貯蔵カ
セット回転装置から吊り下げられる」を本質的特徴とし、この用途に限定される。「回転装置欠落
ゴミ貯蔵機器」に取付け可能なゴミ貯蔵カセットは除外される。
2)本件発明2の間接侵害の成否(省略)
3)損害額の算定(特許法第102条第2項)(本件控訴審における大合議判決で取り扱うとして
省略)
[裁判所の判断]
1.本件発明1の構成要件充足性(直接侵害)について
(1)被告は,本件発明1の構成要件A(A),F(B-5)に「ために」と記載されていること
から,用途が限定されていると主張するが,上記「ために」との記載は,「回転可能に据え付ける」
又は「ごみ貯蔵カセットの支持・回転」というごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置に
係合させることの目的を表すにすぎず,それ以上に他の用途を排除するものと解することはでき
ない。また,被告は,本件特許のすべての請求項の記載からも,上記用途に限定されるとするが,
上記のとおり,本件発明1以外の請求項においても,その他の用途を排除する記載は存在しない。
したがって,被告の主張を採用することはできない。
(2)本件明細書において,ごみ貯蔵カセットは,ごみ貯蔵カセット回転装置に係合して吊り下
げられる構成が開示されていると認められる。しかしながら,他方,本件明細書においては,上
記の構成のみに限定し,それ以外の用途に使用される構成を含むことを排除するような記載は特
段存していないこと,回転装置が欠落したごみ貯蔵機器にも適合することが本件発明1のごみ貯
蔵カセットとしての技術的意義を損なうことをうかがわせるような記載は存在しないことからす
ると,本件発明1のごみ貯蔵カセットについては,ごみ貯蔵カセット回転装置に係合して吊り下
げられる構成ではあるが,かかる用途等に限定されるものではないと解するのが相当であり,こ
のように解することが,本件明細書の記載にも整合するというべきである。したがって,本件明
細書の記載によっても,本件発明1のごみ貯蔵カセットは,上記用途に限定されるものではない
と解するのが相当であり,これに反する被告の主張を採用することはできない。
(3)本件特許の出願当時の技術水準及び本件特許の出願経過によれば,本件発明1にかかるご
み貯蔵カセットは,ごみ貯蔵カセット回転装置と係合して据え付けられ,ごみ貯蔵カセット回転
装置から吊り下げられる構成として特定されたと認めるのが相当である。そして,他方において,
上記の出願経過において,回転装置欠落ごみ貯蔵機器について特段の言及がないこと等からする
と,原告(出願人)において,ごみ貯蔵カセットについて,補正により上記の構成とした以上に,
回転装置欠落ごみ貯蔵機器に取り付けて使用することができるような構成のごみ貯蔵カセットを
意識的に排除したと解することはできないというべきである。したがって,これを前提とする被
告の主張は,いずれも採用することはできない。
2.本件発明2の間接侵害
原告製品(MARKⅢ)用のごみ貯蔵カセットとしてイ号物件を購入する消費者は,一旦,原
告製のごみ貯蔵機器と原告製ごみ貯蔵カセットが一体となった商品を購入した後,ごみ貯蔵カセ
ット部分の交換品としてイ号物件を購入することになる。したがって,この場合,イ号物件を購
入した消費者は,特許実施品である原告製品MARKⅢを購入した後,そのうちの消耗品である
ごみ貯蔵カセットの部分をイ号物件に取り替えたことになる。このようなイ号物件の購入の態様,
ごみ貯蔵機器本体との価格比等に照らすと,消費者による取替えの品としてのイ号物件の設置に
よって,新たな特許実施品であるごみ貯蔵機器が生産されたものとは認められないから,イ号物
件は「その物の生産に用いる物」ということはできない。
[コメント]
直接侵害について、被告の主張には内容がよく分からない主張が散見されるものの、裁判所の
認定は審査基準にも合致するので、妥当な判断であろう。本件の控訴審である大合議判決に注目
したい。
平成23年(ワ)第19340号「ゴム貯蔵機器」事件
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