IP case studies判例研究

平成24年(ワ)18353号「雨水貯留浸透槽」事件

名称:「雨水貯留浸透槽」事件
特許専用実施権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所民事部第46部:平成 24 年(ワ)18353 号 判決日:平成 25 年 12 月 19 日
判決:棄却
キーワード:特許法70条、文言侵害、均等侵害(第 1、第 2、第 5 要件)
[概要]
被告製品は、本件発明の構成要件 A2を備えておらず、均等侵害も成立しないと判断された事
例。(他の争点は省略)
[特許請求の範囲](アンダーラインは争点)
【請求項1】
A1 平板部と
A2 平板部に開口し端部が閉じられた筒状部
A3 を有する部材であって
B 地下に配列し空間を形成し,当該空間をシートで覆って雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土とす
る部材において,
C 前記部材の筒状部の側面には,上下方向に沿って複数の張り出し状のリブが設けられ,
D 筒状部は,開口部から閉じた端面に向かって狭くなるテーパが設けられた
E 雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土用部材。
[争点]
1.構成要件A2及びA3の充足性(被告各製品が「端部が閉じられた筒状部」を有する部材で
あるか)
2.構成要件Cの充足性(被告各製品が「張り出し状のリブ」を有するか)
[原告の主張]
構成要件A2の「端部が閉じられた」には閉面の一部が開口している場合を含むと解釈すべき。
被告各製品において雨水流通孔が設けられているのは付加的構成にすぎない。
被告各製品は本件発明に関して均等論の要件を満たす。
[裁判所の判断]
1.文言侵害について
構成要件A2においては,筒状部が「平板部」の側では「開口し」,「端部」では「閉じられた」
と記載されているのであるから,「端部が閉じられた」との文言は,「開口」の対義的な表現とし
て用いられたものと解される。そうすると,構成要件A2の「端部が閉じられた」とは,文言解
釈上,端部が塞がれており,端部に開口部がないことを意味するものと解するのが相当である。
被告各製品には,・・・いずれも構成要件A2の「端部」に相当する上端部(上面板)に,開口部
(雨水流通孔)が1個又は4個設けられている。したがって,被告各製品が構成要件A2の「端
部が閉じられた」の要件を充足すると認めることはできない。
(原告の主張に対し)
端部に開口部を設けてはならないとする記載はなく,むしろ契合孔が設けられた実施例が記載
されている(原告)。→筒状部それ自体とこれより張り出したリブが区別されることを前提とし
て・・・リブの端部に契合用の孔を設けたものであって,この点は,筒状部それ自体に孔を設けてよ
いことの根拠となるものではない。端面が完全に閉じられた場合と開口部がある場合の安定性に
相違がないことなど原告の主張を認めるに足りる証拠はない(裁判所)。
2.均等侵害について
(1)第1要件
原告は,・・・本件発明の本質的部分は,筒状部に張り出し状のリブを設けること(構成要件C)
により,芯材を用いないでも部材の上下方向の圧縮強度を向上させる点にあるから,「端部が閉じ
られた筒状部」との部分は本質的部分に当たらない旨主張する。
→本件発明は,「リブを設けたため筒状部の強度が向上する」,・・・との効果を有するものであ
り・・・筒状部に張り出し状のリブを設けることは本件発明の本質的部分に当たるということがで
き,原告の主張はその限度で正当と解される。
筒状部の端部が閉じられていることが上記効果との関係でいかなる技術的意義を有するかにつ
いては,本件明細書に明示的な記載はないが・・・端部が閉じられていることは圧縮強度の向上に資
するところがあると考えられる。したがって,本件発明の本質的部分が張り出し状のリブを設け
ることのみにあり,端部が閉じられていることがこれに当たらないと解することは困難である。
本件発明に係る雨水貯留浸透槽等用の部材は,芯材を使用する場合及び芯材を使用しない場合
のいずれであっても,高い圧縮強度を有するものとみることができる。・・・芯材を用いて圧縮強度
を向上させる場合には,芯材が孔から流出しないよう,筒状部の端部が閉じられていることが必
要になると解される。
以上によれば,・・・端部が閉じられていることが,本件発明の本質的部分ではないと認めること
はできない。
(2)第2要件
被告各製品においては筒体の端部
である上面板に雨水流通孔が設けられており,殊に被告製品2及び3においてはその面積が上面
板の相当部分を占める・・・端部を完全に閉じた部材と被告各製品の圧縮強度の比較実験等の証拠
は提出されていない。したがって,被告各製品が本件発明と同一の作用効果を奏すると認めるに
足りる証拠はない。
(3)第5要件
雨水貯留浸透槽等用の部材に雨水流通孔を設けることは,被告各製品の製造当時,当業者が既
に行っていたことであると主張し,さらに,本件特許の出願当時にも技術常識であった旨主張す
るが,・・・そうであるとすれば,特許請求の範囲に「閉じられた端部」と記載したことは,雨水流
通孔が存在する構成を本件発明の技術的範囲からあえて除外したものと解することが可能である。
[コメント]
構成要件Cのリブが本質的部分であることは明らかであるが、「端部が閉じられている」ことが
本質的部分か否かは意見が分かれるかもしれない。「端部が閉じられている」ことは、補正で限定
された事項ではなく、出願当初から存在した構成であるが、原告の主張に基づき、雨水流通孔が
存在する構成は意識的に除外したものと判断した。

平成24年(ワ)18353号「雨水貯留浸透槽」事件

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