IP case studies判例研究

平成26年(ワ)768号「PITAVA」事件(その1)

名称:「PITAVA」事件(その1)
商標権侵害差止請求事件
東京地方裁判所民事部第46部:平成 26 年(ワ)768 号 判決日:平成 26 年 10 月 30 日
判決:認容
キーワード:商標法条46条、商標法第50条、商標法第4条第1項第16号、品質誤認、出所
混同、権利濫用
[概要]
本件商標と被告標章は類似し出所混同をするが、本件商標は無効理由および取消事由があり権
利の行使が認められなかった事例。
[登録商標](商標登録4942833)
PITAVA(標準文字)
第5類 薬剤
[被告標章]
SW/ピタバ/1(or2,or4)
錠剤表面に表示:有効成分の一般的名称はピタバスタチンカルシウム、国際一般名は pitavastatin
(以下、本件物質)
SWは社名、数値は本件物質の含有量を表わす。
[争点]
1.被告標章と本件商標の類否
2.商標的使用の有無
3.権利行使制限の可否
4.権利濫用の成否
[裁判所の判断]
(1)被告標章と本件商標の類比(争点1)
本件物質等のHMG-CoA還元酵素阻害薬が「スタチン」と総称されている上,論文等にお
いてHMG-CoA還元酵素阻害薬の薬剤名を略記する際に「statin」ないし「スタチン」の前
の部分のみを記載する方法が用いられていることからすれば,需要者ないし取引者のうち一般に
医療従事者においては,医薬品に付された「PITAVA」の記載から本件物質を想起するものと認め
られる。
需要者等のうち患者において,一般に「PITAVA」の記載から本件物質を想起すると認めるに足
りる証拠はない。
本件商標は,需要者等のうち患者に対しては特段の観念を生じさせないが,医療従事者に対し
ては本件物質を想起させるものと認められる。
被告各標章は・・・「ピタバ」の称呼を生ずる。また,その観念については,前記ア(イ)に判示
したところによれば,医療従事者に対しては本件物質を想起させるが,患者に対しては特段の観
念を生じさせないものと解し得る。
需要者等のうち医療従事者においては同一の観念を生じさせること,患者においてはいずれに
関しても特段の観念を想起することがないことを考慮すると,被告各商品に付された被告各標章
に接した需要者等は,特に上記称呼の同一性により,本件商標との間で商品の出所に混同を来す
おそれがあるということができる。
(2)権利行使制限の可否(争点3)
需要者ないし取引者のうち一般に医療従事者においては,医薬品に付された「PITAVA」の記載
から本件物質を想起すると認められる。そうすると,本件商標の指定商品のうち本件物質を含有
しない薬剤に本件商標を使用した場合には,需要者等が当該薬剤に本件物質が含まれると誤認す
るおそれがあるので,本件商標は「商品の品質…の誤認を生ずるおそれがある商標」(商標法4条
1項16号)に当たると判断するのが相当である。
したがって,本件商標の商標登録は無効審判により無効にされるべきものであり,原告は本件
商標権を行使することができない。
本件物質を有効成分とする薬剤が一般に店頭で市販されるものでなく医師の処方箋を要するも
のであることを考慮すると,医療従事者において品質の誤認を生ずるおそれがある以上,本件商
標は同号所定の商標に当たると解すべきである。
(3)権利濫用の成否(争点4)
本件契約は本件商標の積極的な使用を許諾する契約ではなく,キョーリンリメディオが本件商
標と類似する「ピタバ」の表示の使用を速やかに中止することを前提に,既に製造し在庫を保有
している製品の限度内でその販売等に対する本件商標権侵害に基づく差止め等を行わないという,
禁止権行使の猶予を合意したものであると解される。
商標権者から禁止権行使の猶予を受けたにすぎない者は同項所定の「通常使用権者」に当たら
ないと解すべきである。そうすると,キョーリンリメディオによる「ピタバ」の使用をもって同
項にいう通常使用権者による本件商標又はこれと社会通念上同一と認められる商標の使用がある
ということはできないから,本件商標の商標登録は不使用取消審判により取り消されるべきこと
が明らかであると考えられる。
したがって,原告による本件商標権の行使は権利の濫用に当たり許されないと判断することが
相当である。
[コメント]
本件商標は無効理由を有すると判断されているが、審査官は「ピタバ」は特段の観念のない造
語と判断して登録査定したものと思われる。
需要者を医療事業者と患者に分けて判断している点は参考になると思われる。
積極的に使用許諾をする契約でない場合は、商標の使用とは認めていない点も注目すべき点と
思われる。

平成26年(ワ)768号「PITAVA」事件(その1)

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