IP case studies判例研究
侵害訴訟等
平成25年(ワ)7569号「吸着搬送装置」事件
名称:「吸着搬送装置」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所民事部第46部:平成 25 年(ワ)7569 号 判決日:平成 26 年 7 月 17 日
判決:棄却
キーワード:特許法70条、特許法104条の3、文言解釈、均等侵害、第1要件
[概要]
イ号製品は技術的範囲に属し、ロ号製品は文言上異なり均等も成立しないとされたが、本件特
許は無効理由があり権利行使できないと判断された事例。
[特許請求の範囲](請求項3)**(アンダーライン及びマーカー部分は争点)
F 上下動部材の先端に設けられた吸着具の吸着面にワークを吸着させてワークを搬送する吸着
搬送装置に使用する流路切換ユニットであって,
G 正圧源に正圧流路を介して連通する正圧供給ポート,前記吸着具の着脱路に連通する出力ポ
ート,真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート,前記着脱路に連通する真空ポート,
および大気に開放され大気を前記着脱路に供給するとともに前記正圧供給ポートからの正圧空気
の一部を排出する大気開放ポートが形成された流路ブロックと,
H 前記流路ブロックに設けられ,前記正圧供給ポートを前記出力ポートに連通させる状態と前
記正圧供給ポートを遮断する状態とに作動する真空破壊制御弁と,
I 前記流路ブロックに設けられ,前記真空ポートを前記真空供給ポートに連通させる状態と前
記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させる状態とに作動する真空供給制御弁とを有し,
J 前記正圧源からの正圧空気を前記着脱路に連通させてワークの吸着を停止する際に,前記真
空供給制御弁の前記真空ポートを前記大気開放ポートに連通させ,前記真空破壊制御弁の前記正
圧供給ポートを前記出力ポートに連通させることにより,前記出力ポートと前記真空ポートとを
連通させて前記流路ブロックに形成された流路を介して前記大気開放ポートを前記正圧供給ポー
トと前記着脱路とに連通させることを特徴とする流路切換ユニット。
[争点]
(1)イ号製品の構成要件G~Jの充足性(文言侵害)
(被告主張)
本件発明の「出力ポート」,「真空ポート」及び「大気開放ポート」も,発明特定要素であるか
ら,本件明細書の実施例に記載されたとおりに限定して解すべきである。したがって,これらは
「流路ブロック」に形成されたものでなければならない。また,本件発明の技術的意義は大気開
放ポートを正圧供給ポート及び着脱路に連通させる「流路」が流路ブロック内にあることにある
から,上記「流路」も「流路ブロック」に設けられていることを要する。
(2)ロ号製品の構成要件G~Jの充足性(文言侵害,均等論)
(被告主張)
流路ブロック31に,正圧源17aに正圧流路を介して連通する正圧供給ポートPaが形成さ
れ,エジェクタ132により負圧を発生させている。真空源と正圧源とは全く異質のものである
上,エジェクタを用いた場合には,排気部から空気が流出するので,ワークが離脱する際に正圧
空気によって吹き飛ばされるという本件発明の課題は存在しない。ロ号製品は「真空供給ポート」
を欠く。
「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート」は本件発明の本質的部分である。
[裁判所の判断]
(1)争点1
本件発明における「流路」とはワークの着脱のために真空ないし負圧及び正圧を生じさせる空
気の通り道をいうものと認められる。また,「ブロック」とは「かたまり。角塊」等の意味を有す
る語である。そうすると,本件発明の「流路ブロック」とは,上記の真空及び正圧を生じさせる
空気の通り道がその内部に形成された物体のかたまりをいうものであって,必ずしも1個の部材
であることを要するものではなく,複数の部材を一体として構成したものでもよいと解するのが
相当である。
イ号製品においては,・・・流路ブロック31の右端にフィルターケース100が組み込まれ,
流路ブロックの上部に流量調整ニードル弁102が取り付けられていること・・・フィルターケ
ースはフィルター交換のため着脱可能であるが,流路切換ユニットとしての使用時には流路ブロ
ックに固着されていること,真空破壊弁25及び真空供給弁24が流量調整ニードル弁の基台1
08を介して流路ブロックに設けられていることが認められる。
そうすると,上記流路ブロック,フィルターケース及び流量調整ニードル弁は一体となった物
体のかたまりであるということができる。
以上によれば,イ号製品は本件発明の技術的範囲に属すると認められる。
(2)争点2
(文言侵害の成否)
ロ号製品においてエジェクタに供給されて真空状態を生じさせる正圧空気の発生源が17aで
あることに照らすと,これは「真空」を生じさせる「源」とみることが可能である。しかし,「真
空」の語が空気の存在しない空間を意味することは明らかであり,真空を生じさせる負圧は正圧
とは逆の概念であるから,特許請求の範囲にいう「真空源」がその文言上「正圧空気の発生源」
を含むとみることは困難である。
特許請求の範囲の文言上,「真空流路」とは(正圧空気ではなく)真空ないし負圧空気が流れる
通路であると,「真空供給ポート」は(正圧空気ではなく)真空ないし負圧空気を供給するポート
であると解釈すべきものである。
ロ号製品は構成要件Gの「真空源に真空流路を介して連通する真空供給ポート」を文言上充足
しない。
(均等侵害の成否)
本件特許の出願経過において,原告は,引用文献1に基づく進歩性欠如等をいう本件拒絶理由
通知に対し,特許請求の範囲の記載等を補正するとともに本件意見書を提出して,引用文献2及
び同3はいずれもエジェクタを用いた技術であり,本件発明を示唆するものでない旨の意見を述
べた。
本件発明は,大気開放ポートがなく,真空破壊のための空気が出力ポートのみから着脱路に流
入し,かつ,出力ポートから供給される正圧空気が全て着脱路の吸着面から排出される従来技術
を前提に,ワークを迅速に離脱させるとともに吹き飛ばしを防止して正確な位置決めをするとい
う課題の解決のため,・・・大気開放ポートがなくても排気口から大気の流入及び正圧空気の排出
が行われるエジェクタを備えた構成は,上記の前提を欠くものであり,本件発明が解決すべき課
題も存在しないことになるから,本件発明とは本質的部分において相違すると解するのが相当で
ある。
エジェクタにより構成されたロ号製品は本件発明の本質的部分を備えていないものとみるべき
であり,ロ号製品について均等による特許権侵害は認められない
[コメント]
文言解釈、均等解釈のいずれも基本に沿った判断手法で行われており、結論も妥当である。
平成25年(ワ)7569号「吸着搬送装置」事件
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