IP case studies判例研究

平成 26 年(ワ)25858 号「ステージの背景で動く映像を表示する装置」事件

名称:「ステージの背景で動く映像を表示する装置」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:平成 26 年(ワ)25858 号 判決日:平成 27 年 8 月 25 日
判決:請求棄却
特許法100条
キーワード:均等侵害
[概要]
本件発明と被告装置2の相違点は,本件発明の本質的部分についてのものというべきであ
るから,被告装置2は均等侵害の第1要件を充足しないとして、差止請求が棄却された事案。
[本件発明]
A 画像源を使用してステージ等の背景の中で動く映像を表示する装置において,
B 反射面(18)をステージ(28)の床(30)の中央領域に配置し,
C 透明で滑らかなフィルム(20)の下端を反射面(18)と背景の間の一定の個所に,
D また上端を天井(32)のもっと前方の個所に保持するように,
E このフィルム(20)がステージ(28)の床(30)と天井(32)の間にその幅全体にわたり延びてい
て,
F 画像源を天井(32)のところでそこに保持されているフィルム(20)の上端の前に配置し,
G 反射面(18)の方に向けてあること
H を特徴とする装置。
[被告製品2]
a プロジェクターから投影される映像を使用してステージ等の背景の中で動く映像を表示
する装置において,
b スクリーンをステージの天井の中央領域に配置し,
c 透明で滑らかなフィルムの上端をスクリーンの背景側端先に,
d また下端を床の観客席側寄りに保持するように,
e フィルムが幕で仕切られたステージの床と天井の間にその幅にわたり延びていて,
f プロジェクターから投影された映像を反射するミラーを床のところでそこに保持されて
いるフィルムの下端の前に配置し,
g スクリーンの方に向けてある
h 装置。
[争点]
・争点(3):被告装置2に係る均等侵害の成否
・争点(1),(2),(4),(5):省略
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
3 争点(3)(被告装置2に係る均等侵害の成否)について
『イ 以上の本件明細書の記載によれば,本件発明は,講演者の立ち位置によってはスクリ
ーンに投影される画像に干渉するという従来技術の問題点(上記ア(イ))を解決するために,
自動車のフロントガラスの前に置かれた物(これがフロントガラスの下にあることは明らか
である。)がフロントガラス(観測者である運転者から見て上端が手前に,下端が奥にあるこ
とは明らかである。)に映り,フロントガラスの背景に存在するように見えるという物理原理
(同(エ))をステージ等の背景に映像を表示することに利用したものであって,ステージの
床に反射面(上記フロントガラスの例において背景に存在するように見える物が置かれる場
所に相当する。)を配置し,フィルム(フロントガラスに相当する。)の上端を観客席側から
見て手前に,その下端を奥に保持するとともに,表示される物を反射面に直接置くのではな
く,これに対面する天井に画像源を配置するとの構成を採用した点に,本件発明の本質的部
分があるものと解される。
ウ これに対し,原告は,フィルムを反射面に向かい合うように傾斜させて配置したこと及
び反射面の反対側に画像源を配置したことが本件発明の本質的部分であり,画像源と反射面
の上下その他具体的な保持・配置関係は本質的部分でないと主張する。
そこで判断するに,本件明細書においては,自動車のフロントガラスの手前にある「保管
場所」と本件発明の「反射面」をそのままの位置関係で対応させており(前記ア(エ)),図
面を含め全て画像源が天井(上),反射面が床(下)にあるものとして記載されているのであ
って(第1図についても,支持部材22の形の下部保持部と巻取パイプ24の形の上部保持
部とを伴うフィルム20(5欄35~37行),第1図の左にいる観客(同41行)との記載
によれば,観客から見た上下及び前後を踏まえた上で作図されたものであると解される。),
画像源と反射面の位置関係が任意に変更可能であることを示唆する記載はない。かえって,
反射面を床に設けることによる効果(前記ア(カ))に触れられていることによれば,本件明
細書の記載上,特許請求の範囲に規定された画像源と反射面の上下関係等が本件発明の本質
的部分に当たらないとみることはできないと考えられる。したがって,原告の上記主張を採
用することはできない。
(3)そうすると,本件発明と被告装置2の相違点は,本件発明の本質的部分についてのも
のというべきであるから,被告装置2は均等侵害の第1要件を充足しないものと解するのが
相当である。
したがって,他の均等侵害の要件を検討するまでもなく,被告装置2が本件発明の技術的
範囲に属するということはできない。』
[コメント]
被告装置2は、本件発明1の画像源、反射面及びフィルムの保持・配置関係を逆にしたも
のであるが、原告も主張したように本件発明1と略同一の作用効果を奏するであろう。本件
発明1は、自動車のフロントガラスから着想を得て上記の構成を採用したものであるが、仮
に本件明細書中に被告装置2のような構成でもよいことを示唆する記載があれば、均等侵害
が認められた可能性があり、出願時には変形例をよく検討することが望まれる。

平成 26 年(ワ)25858 号「ステージの背景で動く映像を表示する装置」事件

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