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平成26年(ワ)第6163号「システム作動方法」事件

名称:「システム作動方法」事件
特許権侵害行為差止等請求事件
大阪地方裁判所:平成26年(ワ)第6163号 判決日:平成29年12月14日
判決:請求棄却
特許法29条1項、2項
キーワード:無効理由の存否、除くクレーム
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/332/087332_hanrei.pdf
[概要]
請求項1及び2に係る発明は、公知発明1、2に基づき新規性がなく、除くクレームが認められた訂正発明後の請求項1及び2に係る発明は公知発明1、2と周知技術により進歩性がなく、いずれにしても無効理由が存するから、本件特許権の侵害に基づく損害賠償請求について理由がないと判断された事例。
[事件の経緯]
原告は、発明の名称を「システム作動方法」とする発明に係る特許権(特許第3350773号、以下、「本件特許権A」)の特許権者である。
原告は、被告が製造、販売するイ号製品が本件特許権Aの請求項1及び2に係る発明を間接侵害したとして、被告に対し損害賠償請求金の支払いを求めた。大阪地裁は、原告の本件特許権Aに関する請求を棄却した。
[本件特許権A]
(本件訂正発明A-1)[]は訂正事項の番号である。
A´ ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶する[1]とともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体[2](ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を[3]上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、
B´ 上記記憶媒体は、少なくとも、
B-1´ 所定のゲームプログラムおよび/またはデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、
B-2´ 所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており、
C´ 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに[7]加えて、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成[8]するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり、
D´ 上記第2のROMが上記ゲーム装置に装填されるとき、
D-1´ 上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ、
D-2´ 上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする、
E´ ゲームシステム作動方法。
[争点](ここでは、(※)のみを紹介)
<本件特許権A関連>
(1)技術的範囲の属否等
ア 文言侵害の成否
イ 均等侵害の成否
ウ 間接侵害及び一般不法行為の成否
(2) 無効理由の存否 ※
(3) 訂正の対抗主張の成否 (※)
(4) 損害額
[本件特許権A関連:裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『(1) 争点(2)(無効理由の存否)について
事案に鑑み、まず争点(2)から判断する。当裁判所は、本件発明A-1の構成は公知発明1の構成と同一であり、本件発明A-2の構成は公知発明2の構成と同一であるから、本件各発明Aはいずれも新規性を欠くという無効理由が存在すると判断する。以下、詳述する。
ア 本件各発明Aについて
本件各発明Aは、家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作動方法に関し、より詳しくは、CD-ROMなどの高密度記憶媒体をソフトウェア供給媒体として使用する場合に好適なシステム作動方法に関する発明である(本件特許A明細書の【0001】)。』
『イ 公知発明について
(ア) 公知発明1及び2の構成
・・・(略)・・・
そして、この本件ゲームシステムを本件発明A-1及び本件発明A-2に即して説明すると、本件発明A-1に対応する発明として別紙「公知発明1の構成(被告主張)」、本件発明A-2に対応する発明として別紙「公知発明2の構成(被告主張)」各記載のとおりであると認められる。
(イ) (ア)の認定の補足説明
・・・(略)・・・
しかし、「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であればレベル1からスタートするキャラクタのレベル(乙A4の2・12枚目、乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにし(乙A4の1・8枚目)、それにより標準のゲーム内容であればGOLD(ゴールド)というゲーム内における金貨で支払わなければ取得できない回復アイテム(乙A4の1・14枚目、乙A4の2・9枚目)を神殿で祈ることで取得できるようにすること(乙A9・2頁、乙A10・3頁)は、キャラクタの能力にバリエーションを与えるものであるから、キャラクタレベルの増加及びキャラクタのアイテムの増加であると認められる。また、上記のような動作機能は、「勇士の紋章」の標準のゲーム内容にはない動作機能であり、標準ゲームプログラム等とは異なるゲームプログラム等によって実現するものであるから、上記の動作機能を実現するためのゲームプログラム等は、拡張ゲームプログラム等であると認められる。したがって、原告の上記主張は採用できない。
ウ 本件各発明Aと公知発明の対比
(ア) 本件発明A-1と公知発明1の対比
・・・(略)・・・本件発明A-1は、公知発明1と同一の構成であると認められる。したがって、本件発明A-1は新規性を欠く。
・・・(略)・・・
(2) 争点(3)(訂正の対抗主張の成否)について
上記(1)のとおり、本件特許Aには無効理由が存在したことから、更に進んで、訂正の対抗主張の成否について検討すると、当裁判所は、本件訂正は適法であるが、本件訂正発明A-1及びA-2はいずれも進歩性を欠くため、本件特許Aには無効理由がなお存在すると判断する。以下、詳述する。
ア 訂正要件の充足性
(ア) 訂正事項2
訂正事項2は、「記憶媒体を」を、「記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を」に限定する、いわゆる除くクレームとする訂正であるところ、被告は、本件特許Aの当初明細書の記載の範囲を超えて訂正したものであると主張する。
・・・(略)・・・
そこで、本件特許Aの当初明細書を通覧すると、・・・(略)・・・「記憶媒体」に関して、セーブデータを記憶可能ではない書換え不可能な記憶媒体であるCD-ROMを使用しても、セーブデータを記憶できる書換え可能な記憶媒体であるフロッピーディスク、ハードディスク、光磁気(MO)ディスクを使用してもよいという記載がある(【0042】)。そうすると、本件特許Aの当初明細書においては、「所定のキー」を記録する「記憶媒体」には、セーブデータを記憶可能なものも記憶可能でないものも含まれていたと認められ、訂正事項2は、「記憶媒体」をそのうちの「セーブデータを記憶可能な」ものを除くものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
・・・(略)・・・
しかし、「記憶媒体」をセーブデータの記憶が不可能なものに限定しても、第1の記憶媒体を有しているユーザのみが第2の記憶媒体中の拡張ゲーム機能を楽しむことができるという作用効果を奏することに変わりはなく、他方、そのような限定をすることに特段の作用効果や技術的意義があるとは認められないから、訂正事項2は、新たな技術的事項を導入するものではないと認められる。したがって、訂正事項2に関する訂正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであるといえるから、被告の上記主張は採用できない。』
『イ 本件各訂正発明の容易想到性
(ア) 本件訂正発明A-1
a 公知発明1との相違点
・・・(略)・・・
(a) 相違点1-1
本件訂正発明A-1は、「記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し、公知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」(RWM-Read/Write Memory)である点。
(b) 相違点1-3
本件訂正発明A-1の「第1の記憶媒体」は、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除くから、「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し、公知発明1では、魔洞戦紀DDⅠに包含される「所定のキー」が、魔洞戦紀DDⅠに記憶されたセーブデータであって、魔洞戦紀DDIにセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。
b 相違点に係る構成の容易想到性
・・・(略)・・・
(b) 検討
ⅰ 前記認定事実によれば、ゲームソフト業界においては、本件特許Aの出願前からゲームソフトの大容量化が進められており、ゲーム内容や音楽効果をより多彩にするためにゲームソフトの記憶媒体に大容量のCD-ROMを用いることは、本件特許Aの出願前の時点で周知技術であったと認められる。そうすると、ゲームプログラム等の記憶媒体としてCD-ROMを採用すること(相違点1-1)は、それ自体としては、当業者が容易に想到し得たものであるといえ・・・(略)・・・
ⅱ もっとも、公知発明1のゲームプログラム等の記憶媒体として、RWM(ディスク)に代えてCD-ROMを採用することの容易想到性については、それにより所定のキーもセーブデータでなくなること(相違点1-3)から、別途の検討が必要であり、原告は、公知発明1のRWMをセーブデータを記憶できない読出し専用の記憶媒体に変更することには阻害要因があると主張する。
確かに、前記認定のとおり、公知発明1に係るディスクシステムは、ゲームのデータをセーブする機能を有するようになったことや、ディスクに書き込まれたゲームプログラムの書換えができることを大きな特徴としているから、公知発明1の記憶媒体をRWMからCD-ROMに変更したときには、これらの機能が損なわれることが想定される。
しかし、まず、公知発明1や前記のMSX規格の複数のゲームソフトの存在からすると、連作もののゲームソフトにおいて、続編のゲームソフトのみでもその標準ゲーム機能を楽しむことができるが、前編のゲームソフトを有しているユーザであれば、それに記録されたキー・データを用いて続編のゲームソフトの拡張ゲーム機能を楽しむことができるようにするという技術は、本件特許Aの出願前で、ゲームソフトの記憶媒体としてCD-ROMが普及する以前の、セーブ機能がないROMカセットの時代から既に当業者の間で周知であったと認められる(以下「上記の周知技術」という。)。そして、複数の大手ゲームソフト企業からその技術を採用したゲームソフトが発売されていたことからすると、その技術がゲームソフトを販売する上で有用であるとの認識が、当業者の間で共有されていたものと推認される。
そうすると、ゲームソフト業界がソフトの大容量化を進める状況下で、ゲームソフトの記憶媒体として新たに普及してきたCD-ROMという大容量の記憶媒体についても、既に公知発明1や前記のMSX規格のゲームソフトにおいて採用されていた上記の周知技術を適用していくことについて、当業者には十分な動機付けがあったと認めるのが相当である。
・・・(略)・・・これらからすると、当業者において、上記の周知技術をCD―ROMという記憶媒体に適用するという動機付けに基づき、公知発明1の所定のキーを上記の①のデータのみに変更し、セーブデータを含まないものとすることは、当業者が適宜選択可能な設計変更にすぎないというべきである。
もっとも、このような変更をする場合には、公知発明1からセーブ機能が失われることが想定されるとともに、DDⅡにDDⅠのキャラクタが記憶できなくなる。しかし、前記のMSX規格の「ファミスタ」と「ぎゅわんぶらあ2」では、セーブ機能がなくても、前編のゲームソフトにプリセットされたピンチヒッターやキャラクタが追加されることで上記の周知技術を実現していたのであるし、所定のキーをキャラクタが一定以上のレベルを有するものに限るか否かは、ゲームの難易度を適切なレベルに設定する等の観点から当業者が適宜設定できる条件にすぎないから、上記の周知技術をCD―ROMという記憶媒体に適用するという動機付けに基づき、公知発明1をそれらの「ファミスタ」等と同様に、キャラクタをプリセットのものとし、セーブ機能を有しないものとすることに阻害事由があるとはいえない。』
[コメント]
特許権A関連の訂正発明(除くクレームに係る事項)について、原告は、公知発明1のRWM(リードライドメモリ)をセーブデータを記憶できない読出し専用の記録媒体に変更することは阻害要因があると主張している。これに対し、裁判所では、次の①~④の事項を認定し、公知発明1のRWMを読出し専用の記録媒体にすることに阻害要因がないと認定している。
①ゲーム内容や音楽効果をより多彩にするための技術は、CD-ROMが普及する前から周知であり、CD-ROMという大容量の記録媒体にも採用する動機付けが十分にあること、②ゲーム内容などを多彩にする周知技術は、読出し専用の記録媒体のみでも効果が発揮されること、③特許権Aにて読出し専用の記録媒体に限定したことに技術的意義がないこと、④MSX規格では、ゲーム内容等を多彩にする周知技術を読出し専用の記録媒体を用いても実現していること
このような阻害要因を否定するための主張は、証拠を非常に要することになるが、参考になると考える。
本事例は、一つの判決にて2つの特許権A,Bによる損害賠償を求めた事案である。本事例の特許権Aでは請求が棄却されているが、他方の特許権Bでは損害賠償が認められている。
以上
(担当弁理士:坪内 哲也)

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