IP case studies判例研究
侵害訴訟等
平成30年(ネ)第10018号「自動麻雀卓」事件
名称:「自動麻雀卓」事件
特許権侵害に基づく差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成30年(ネ)第10018号 判決日:平成30年7月19日
判決:請求棄却
条文:特許法70条1項、2項
キーワード:構成要件充足性
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/890/087890_hanrei.pdf
[概要]
被控訴人の各製品が控訴人の特許発明の技術的範囲に属するか否かについて争われたが、被控訴人の各製品が控訴人の特許発明の技術的範囲に属さないと判断された事例。
[事件の経緯]
控訴人(原審原告)は、特許第4367956号の特許権者である。
控訴人(原審原告)は、被控訴人の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被控訴人の行為の差止めと製品の廃棄及び損害賠償を求めた(東京地裁平成29年(ワ)第5074号)ところ、東京地裁が、控訴人の請求を棄却する判決をしたため、控訴人は、原判決を不服として、控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の控訴を棄却した。
[本件発明]
【請求項1】
A:各場へ牌を供給するための4つの開口が設けられている天板を有する本体と、
B:磁性体を埋設した牌を攪拌するため前記本体内に設けられた攪拌装置と、
C:前記各場の開口に対応してそれぞれ前記攪拌装置から牌を取り上げる汲上機構と、
D:該汲上機構によって取り上げられた牌を一方向に整列して送り出すための整列機構と、
E:該整列機構から牌を受け取り所定の整列牌を形成して待機させるための形成・待機機構と、
F:該形成・待機機構で形成され待機している前記整列牌を対応する開口から天板上に上昇させる機構とを備えた自動麻雀卓であって、
G:前記攪拌装置は回転するターンテーブルと外壁とが設けられ、攪拌された牌は前記ターンテーブルの回転により外壁に向かって移動させ、
H:前記牌を取り上げる汲上機構は円筒回転体が設けられ、
I:該円筒回転体の周面部位には前記円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し、
J:前記吸着面の中心には磁石を埋没し、前記吸着面に磁気力により牌を吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を回転させ、
K:前記整列機構は、前記円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材と、
L:該案内部材の延長上であって前記円筒回転体の頂上付近には前記円筒回転体の吸着面から牌を剥離して前記形成・待機機構に導くための誘導路を設け、
M:前記円筒回転体によって下方位置にて取り上げられた牌は、前記案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動するとともに前記誘導路の一端に捕捉されて前記円筒回転体から離脱するようにした
N:ことを特徴とする自動麻雀卓。
[被告製品]
各被告製品の吸着面の幅は約32.6mmであり、牌の横幅(約24.0mm)よりはるかに大きく、牌の縦幅(32.9mm)にほぼ等しいことを特徴とする自動麻雀卓
[争点]
・原審の各被告製品が構成要件I、K、L、Mを充足するか(争点1~4)
・構成要件Mについての均等侵害の成否(争点5)
・構成要件Kについての均等侵害の成否(争点6)。※争点6は、控訴審にて追加主張。
(本判決においては、争点1のみが判断されており、他の争点は判断されていない。)
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(1)構成要件Iの意義
ア 本件発明に係る特許請求の範囲には、「吸着面」について、①攪拌装置から牌を取り上げる汲上機構を構成する円筒回転体には円筒回転体の一側端から「牌の横幅ほどの幅」の「吸着面」が配設されること(構成要件C、H、I)、②「吸着面」の中心には磁石を埋没し、「吸着面」に磁気力により牌を吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を回転させること(構成要件J)、③汲上機構によって取り上げられた牌を一方向に整列して送り出すための整列機構には、円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため「吸着面」の外側の軌道に沿って配設した案内部材が設けられること(構成要件D、K)の記載がある。
そして、自動麻雀卓における「牌」は、字面に垂直な方向からみて「横幅」が「縦幅」より短い長さとなる長方形状であるから(原判決別紙図2)、構成要件Iの「牌の横幅ほどの幅」との特定は、「吸着面」の幅が「牌の縦幅」より「牌の横幅」に近い幅をもつことを特定するものと解するのが文言上自然である。
イ もっとも、特許請求の範囲の記載のみからは「横幅ほど」の外延は必ずしも明らかではないことから、本件明細書の記載について検討する。
本件明細書には、上記1(2)のとおりの本件発明の課題の解決手段として、円筒回転体の周面部位に円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し、磁性体を埋設した牌を、中心に磁石を埋没した吸着面に磁気力により吸着し、円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材を設け、前記円筒回転体によって下方位置にて取り上げられた牌は、前記案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動する(段落【0008】)ことが記載されている。そして、円筒回転体は牌の縦幅と略等しい長さの高さ寸法であり(段落【0009】、【0021】)、円筒回転体の一側端から「牌の横幅」と略等しい幅の吸着面が形成される(段落【0021】)ことが記載されており、これらの記載からは、「牌の縦幅」と区別される「牌の横幅」を「吸着面の幅」に相当するものとしていることが理解され、このような理解は特許請求の範囲の記載とも整合する。
さらに、本件明細書の段落【0033】~【0035】には、吸着面401Bに様々な角度で吸着した牌10につき、案内部材501の入り口付近で吸着面401Bからはみ出た側面が、案内部材先端502に接触して抵抗を受け、磁石により吸引されて回転しながら向きを変え、縦長方向に整列することが記載され、図10及び図11における吸着面401Bの幅は牌の横幅に近似する幅であることが見て取れる。
ウ ・・・(略)・・・。
エ 控訴人の主張について
(ア)・・・(略)・・・。
(イ)控訴人は、「牌の横幅ほどの幅」(構成要件I)の意義について、「攪拌機構から牌の磁力による吸着が安定的に可能である最小限の幅以上で、かつ、機構全体の小型化を阻害しない程度の幅」を意味し、「横幅ほど」との文言は縦幅を除外する趣旨で設けられたものではなく機構自体を小型にすることを象徴的に述べたものに過ぎないと主張する。しかし、特許請求の範囲の記載における「横幅ほど」という記載は発明の具体的な構成を特定する記載であり、これをもって控訴人の主張するような象徴的な記載と解することはできない。また、本件明細書の記載や図面には、吸着面の幅を牌の横幅に近似する幅とする構成が記載され、牌の縦幅に近似する幅とする構成は開示も示唆もされていない。控訴人の主張は採用できない。
(2)構成要件Iの充足性
以上を前提に、構成要件Iの充足性について検討するに、各被告製品の吸着面の幅(円筒回転体の一側端からの幅)が約32.6mmであるのに対し、牌の横幅は約24.0mm、牌の縦幅は約32.9mmであって(乙4及び当事者間に争いがない事実)、各被告製品の吸着面の幅は牌の横幅より約8.6mm大きい一方、縦幅よりわずかに約0.3mm小さいに過ぎない。これによれば、各被告製品の吸着面の幅は、牌の横幅ではなく縦幅に近似し、様々な角度で吸着面に吸着した牌の側面が当該吸着面からはみ出る部分を有し、はみ出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃えることができる程度の幅であるともいえないから、各被告製品の吸着面は構成要件Iの「牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」を充足しない。
3 このように、各被告製品は構成要件Iを充足しないから、当審における追加主張(争点6)を含むその余の点を判断するまでもなく、被控訴人が各被告製品を輸入、販売等することが本件特許権を侵害するものとは認められない。』
として、控訴人(原審原告)の主張を棄却した。
[コメント]
本件訴訟において、補正後の特許請求の範囲に記載された構成要件について、「明細書でその構成要件が特定の大きさや形状でなくてもよいとの記載に基づいて、特許請求の範囲に記載の文言を限定解釈されない」との主張を行ったが、特許請求の範囲に記載の用語の意義は、明細書及び図面の全体の記載を参酌して解釈すべきと判断された。
特許法70条2項は、明細書の一部に補足的にでも記載があれば、その内容をも考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義が解釈されるということではなく、明細書や図面全体の記載を参酌して解釈された内容から、特許請求の範囲に記載された用語の意義が解釈される、という規定である。出願時には、この点を理解し、さらに特許請求の範囲の補正時には、明細書や図面の記載から、技術的範囲がどのような範囲に解釈されるのかを意識しつつ行わなければならない。
以上
(担当弁理士:植田 亨)
平成30年(ネ)第10018号「自動麻雀卓」事件
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