IP case studies判例研究

平成30年(ネ)第10006号、10022号「システム作動方法」事件

名称:「システム作動方法」事件
特許権侵害行為差止等請求控訴事件・同附帯控訴事件
知的財産高等裁判所:平成30年(ネ)第10006号、10022号 判決日:令和元年9月11日
判決:原判決変更
特許法29条2項
キーワード:ゲーム特許の侵害論、間接侵害、無効理由の存否
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/970/088970_hanrei.pdf

[概要]
 原審において訂正後の請求項1及び2に係る発明は、公知発明1に基づき進歩性がないとして無効と判断されていたところ、控訴審では公知発明1において訂正後発明のような構成(セーブデータを記憶可能な記録媒体を除くこと)を採用することが、動機付けに欠き、むしろ阻害要因があり進歩性が認められ、本件特許権の侵害に基づく損害賠償請求について認められた事例。

[事件の経緯]
 控訴人(原審原告)は、発明の名称を「システム作動方法」とする発明に係る特許権(特許第3350773号、以下、「本件特許権A」)の特許権者である。
 控訴人は、被控訴人(原審被告)が製造、販売するイ号製品が本件特許権Aの請求項1及び2に係る発明を間接侵害したとして、被控訴人に対し損害賠償請求金の支払いを求めた。大阪地裁は、控訴人の本件特許権Aに関する請求を棄却したため、控訴人は、原判決を不服として、控訴を提起した。
 これに対して、知財高裁は、控訴人の控訴の一部を認容し、原判決を変更した。

[本件特許権A:請求項1]
(本件訂正発明A1:下線部が訂正事項)

A´
ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、
B´
上記記憶媒体は、少なくとも、
B-1´
所定のゲームプログラムおよび/またはデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、
B-2´
所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており、
C´
上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり、
D´
上記第2のROMが上記ゲーム装置に装填されるとき、
D-1´
上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ、
D-2´
上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする、
E´
ゲームシステム作動方法。

[争点](ここでは、(※)のみを紹介)
<本件特許権A関連>
 ア イ号製品を用いたゲームの作動方法は本件発明A1及びA2の技術的範囲に属するか(争点1-1)
(ア) 文言侵害の成否(争点1-1-1) ※
(イ) 均等侵害の成否(争点1-1-2)
(ウ) 間接侵害(特許法101条4号)の成否(争点1-1-3)
(エ) 実施行為の惹起行為による不法行為の成否(争点1-1-4)
イ 本件発明A1及びA2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点1-2)
ウ 控訴人の損害の有無及び損害額(争点1-3)

[被告製品]※判決文より筆者が記載
製品イ-9等:戦国無双3(第1記録媒体)、戦国無双3猛将伝(第2記録媒体)。戦国無双3猛将伝は、拡張データの全てを包含。
製品イ-1等(イ-9以外):戦国無双(第1記録媒体)、戦国無双猛将伝(第2記録媒体)。戦国無双猛将伝は、拡張データの全てを包含しないと判断。∵戦国無双猛将伝でPS2を作動させ、「結合モード」を選択すると、「戦国無双のディスクからデータを読み込みます よろしいですか?」と表示され、戦国無双に入れ替え、再度、戦国無双猛将伝に入れ替えると、戦国無双のキャラクタでプレイ可能となる。

[被控訴人の主張]
・第2の記憶媒体によりゲーム装置を作動させる前に、「所定のキー」が読み込まれているか否かを判定することを前提とするが、イ号方法では、第2の記憶媒体がゲーム装置に装填された直後のステップで、「所定のキー」を読み込んでいるか否かを判定していないから、構成要件D、D-1及びD-2を充足しない。
・イ-1号方法等は、本編ディスクプログラムの全てがアペンドディスクに記録されているわけではなく、本編ディスクに記録された本編ディスクプログラムの一部をゲーム機に読み込み、アペンドディスクに記録された本編ディスクプログラムの残りの一部と組み合わせることにより、本編ディスクプログラムが完成し、ゲーム機が作動するものである。

[本件特許権A関連:裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『①イ号方法のうち、イ-9号製品等を用いた方法は、本件発明A1の技術的範囲に属し、これらの品を製造、販売又は販売の申出をすることは、本件発明A1についての本件特許権Aの間接侵害(特許法101条4号)に該当する、また、本件発明A1に係る特許は、特許無効審判により無効となるべきものとはいえない、②その余のイ号方法(イ-1号製品等を用いた方法)は、本件発明A1の構成要件B-2及び本件発明A2の構成要件G-2を充足せず、本件発明A1及びA2の構成と均等なものでもないから、本件発明A1及びA2の技術的範囲に属するものではない』(P94)
(1) 争点1-1-1(文言侵害の成否)について
『イ 本件発明A1の技術的範囲の属否について
(ア) 構成要件D、D-1及びD-2の意義
 ・・・(略)・・・
 一方、上記特許請求の範囲には、「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期について、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」た直後のステップであって、第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限定して解釈すべき根拠となる記載はない。
(b) 次に、前記ア(イ)のとおり、本件明細書Aの発明の詳細な説明には、「本願発明」は、第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させ、上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラム及び/又はデータのみによってゲーム装置を作動させるという構成を採用することにより、第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とを所有するユーザは、第2の記憶媒体に記憶されている標準のゲーム内容に加え、拡張されたゲーム内容を楽しむことが可能となる等の効果を奏することが記載されており、この点に技術的意義があるものと認められる。
 そして、本件発明A1の上記技術的意義に照らすと、「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期を、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」た直後のステップであって、第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限る必然性は見いだし難い。本件明細書A全体をみても、「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期を上記の時点に限定することによって、その他の時点で上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込む場合と比して有利な効果を生じるなどの技術的意義があることについての記載も示唆もない
(c) 以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば、本件発明A1の「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期は、「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」ている場面であれば足り、第2の記憶媒体がゲーム装置に装填された直後のステップであって、第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限定されるものではないと解すべきである。』(P107-109)
『b これに対し被控訴人は、①本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載、②本件明細書Aの【0018】の記載、③本件特許出願Aの出願審査の際に控訴人が提出した意見書(乙A14の1、2)の記載によれば、構成要件D、D-1及びD-2は、第2の記憶媒体によりゲーム装置を作動させる前に、「所定のキー」が読み込まれているか否かを判定することを前提とする旨主張する。』(P109-110)
『しかしながら、上記記載から直ちに、控訴人が、本件発明A1の技術的範囲につき、第2の記憶媒体がゲーム機に装填された直後のステップであって、ゲーム機が作動する前の時点で「所定のキー」が読み込まれているか否かを判定する構成のものに限定する趣旨のものである旨主張したものと理解することはできない。また、上記意見書は、その記載全体をみれば、拒絶理由通知に記載された引用例1の発明と本件訂正A前の本件特許Aの特許請求の範囲の請求項1に係る発明とは、標準ゲームプログラムの内容の拡張という概念の有無において相違するものであるから、引用例1の発明に基づき上記本件訂正A前の発明を容易に発明することができたものではない旨を主張したものと理解できる。』(P110-111)
『(イ) 構成要件B等の意義
 ・・・(略)・・・
 このように、構成要件B-2の「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」とともにゲーム装置を作動させるものであり、第2の記憶媒体に記憶されるものであって、第2の記憶媒体がゲーム装置に装填されるときにゲーム装置を作動させることが可能なものであることからすると、「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」とは、第2の記憶媒体にその全部が記憶されているものを意味するのであり、第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とに分かれて記憶されているものは含まれないと理解できる。・・・(略)・・・
(c) 以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば、本件発明A1の「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、「第2記憶手段」にその全てが記録されるものを意味するのであって、「第1記憶手段」と「第2記憶手段」とに分かれて記憶されるものは含まれないと解される。』(P111-113)
『そこで、イ-1号方法等が本件発明A1及びA2の構成要件を充足するか否かについて検討する。・・・(略)・・・
 かえって、前記(a)のとおり、MIXJOYを有効にするためにメニューから「結合」を選択すると、「『戦国無双』のディスクからデータを読み込みます よろしいですか?」とのインストラクションが表示されること、「結合」により追加される機能は、いずれも「戦国無双」のステージやキャラクタであることからすると、「戦国無双猛将伝」DVD-ROMにこれらのプログラム及び/又はデータの全てが存在するとは考えにくく、「戦国無双」DVD-ROMにこれらのプログラム及び/又はデータが少なくとも一部は存在し、メッセージに従って「戦国無双」DVD-ROMを挿入したときに、同DVD-ROMから、「戦国無双」ゲームプログラム及び
/又はデータの一部を読み込んでいるものと推認される。・・・(略)・・・
 そして、前記(イ)のとおり、本件発明A1の「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は、「第2の記憶媒体」にその全てが記録されるものであって、「第1の記憶媒体」と「第2の記憶媒体」に分かれて記憶されるものは含まれないと解されることから、イ-1号方法等は、「第2の記憶媒体」に「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」が「包含」されるものではなく、本件発明A1の構成要件B-2、C及びD-1を充足せず、同様の理由により、本件発明A2の構成要件G-2、H及びI-1を充足しない。
 したがって、イー1号方法等は、本件発明A1及びA2の技術的範囲に属するものとは認められない。』(P115-118)

[コメント]
 侵害論について、裁判所による構成要件D、D-1、D-2、Bの解釈は、請求項の記載にも合致しているので、違和感がない。しかし、製品イ-1等が技術的範囲に属さないとした理由については違和感がある。裁判所の理由としては、戦国無双のデータを読み込む表示がなされることと、その結果追加されるデータが戦国無双のステージやキャラクタであることのみが挙げられている。上記表示がなされたとしても、実際に読み込んでいるデータを特定できず、所定のキーのみを読み込んでいる可能性があり、戦国無双から拡張データの一部を読み込んでいるとは断言できないと考える。訴訟進行の過程が不明であるので断定できないが、この点が争点になったときに、DVD-ROMは解析可能であるので、実際の製品を入手し、戦国無双猛将伝に戦国無双のデータがあることを示す証拠を提出できていれば、製品イ-1等についても侵害が認定されたかもしれない。
 無効論について、原審では、次の①~④の事項を認定し、公知発明1のRWMを読出し専用の記録媒体にすることに阻害要因がないと認定していた。①ゲーム内容や音楽効果をより多彩にするための技術は、CD-ROMが普及する前から周知であり、CD-ROMという大容量の記録媒体にも採用する動機付けが十分にあること、②ゲーム内容などを多彩にする周知技術は、読出し専用の記録媒体のみでも効果が発揮されること、③特許権Aにて読出し専用の記録媒体に限定したことに技術的意義がないこと、④MSX規格では、ゲーム内容等を多彩にする周知技術を読出し専用の記録媒体を用いても実現していること
 これに対して、控訴審では、公知発明1は、前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上、後作のゲームにおいても、前作のゲームのキャラクタでプレイしたり、前作のゲームのプレイ実績により、後作のゲームのプレイを有利にしたりすることによって、前作のゲームをプレイしたユーザに対して、続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起し、これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものであるから、プレイ実績などを示す情報を前作の記憶媒体にセーブできることを前提とするとして、セーブデータを除く本発明にすることに阻害要因があると判断された。原審に比べて公知発明1を抽象化せずに認定が行われたように感じる。
 本事例は、一つの判決にて2つの特許権A、Bによる損害賠償を求めた事案である。ここで紹介していない特許権Bでは損害賠償額が増加している。

以上
(担当弁理士:坪内 哲也)

平成30年(ネ)第10006号、10022号「システム作動方法」事件

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