IP case studies判例研究

令和元年(ワ)第25152号「コメント配信システム」事件

名称:「コメント配信システム」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:令和元年(ワ)第25152号 判決日:令和4年3月24日
判決:請求棄却
特許法2条3項1号
キーワード:生産、構成要件の一部国外設置
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/124/091124_hanrei.pdf
[概要]
被告システムは、本件発明の技術的範囲に属すると認められるものの、被告システムの一部構成であるサーバが日本国外に設置されており、被告システムが日本国内における生産とは認められないとして、侵害が否定された事例である。
[特許請求の範囲]
【請求項1】
サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
前記サーバは、
前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
前記コメント情報は、
前記第1コメント及び前記第2コメントと、
前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、
前記動画と、
前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、コメント配信システム。
[主な争点]
被告らによる被告システムの「生産」の有無(争点4)
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『(2) 被告FC2による被告システムの「生産」の有無について
ア 本件発明1の関係での被告システム1(被告サービス1のFLASH版)の「生産」について
・・・(略)・・・
(ア) 物の発明の「実施」としての「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に属する「物」を新たに作り出す行為をいうと解される。また、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味する属地主義の原則(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)からは、上記「生産」は、日本国内におけるものに限定されると解するのが相当である。したがって、上記の「生産」に当たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内において新たに作り出されることが必要であると解すべきである。
(イ) 前記3(1)のとおり、被告システム1は、本件発明1の構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属するものであって、被告システム1における構成1aないし1iは、本件発明1の構成要件1Aないし1Iにそれぞれ相当する。
また、被告サービス1のFLASH版においてコメント付き動画を日本国内のユーザ端末に表示させる手順は、前記(1)ウ(ア)のとおりであって、被告サービス1がその手順どおりに機能することによって、上記のとおり本件発明1の構成要件を全て充足するコメント配信システムである被告システム1が新たに作り出されるということができる。
そして、本件発明1のコメント配信システムは、「サーバ」と「これとネットワークを介して接続された複数の端末装置」をその構成要素とする物であるところ(構成要件1A)、被告システム1においては、日本国内のユーザ端末へのコメント付き動画を表示させる場合、上記の「これとネットワークを介して接続された複数の端末装置」は、日本国内に存在しているものといえる。
他方で、前記3(2)アによれば、本件発明1における「サーバ」(構成要件1A等)とは、視聴中のユーザからのコメントを受信する機能を有するとともに(構成要件1B)、端末装置に「動画」及び「コメント情報」を送信する機能(構成要件1C)を有するものであるところ、これに該当する被告FC2が管理する前記(1)ウ(ア)の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバは、前記(1)イ(ア)のとおり、令和元年5月17日以降の時期において、いずれも米国内に存在しており、日本国内に存在しているものとは認められない
そうすると、被告サービス1により日本国内のユーザ端末へのコメント付き動画を表示させる場合、被告サービス1が前記(1)ウ(ア)の手順どおりに機能することによって、本件発明1の構成要件を全て充足するコメント配信システムが新たに作り出されるとしても、それは、米国内に存在する動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバと日本国内に存在するユーザ端末とを構成要素とするコメント配信システム(被告システム1)が作り出されるものである。
したがって、完成した被告システム1のうち日本国内の構成要素であるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことになるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント25 配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることができない。
(ウ) 原告は、被告システム1では、多数のユーザ端末は日本国内に存在しているから、被告システム1の大部分は日本国内に存在している、被告FC2が管理するサーバが国外に存在するとしても、「生産」行為が国外の行為により開始されるということを意味するだけで、「生産」行為の大部分は日本国内で行われている、本件発明1において重要な構成要件1Hに対応する被告システム1の構成1hは国内で実現されている、被告システム1については「生産」という実施行為が全体として見て日本国内で行われているのと同視し得るにもかかわらず、被告らが単にサーバを国外に設置することで日本の特許権侵害を免れられるという結論となるのは著しく妥当性を欠くなどとして、被告システム1は、量的に見ても、質的に見ても、その大部分は日本国内に作り出される「物」であり、被告らによる「生産」は日本国内において行われていると評価することができると主張する。
しかしながら、前記(ア)のとおり、特許法2条3項1号の「生産」に該当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内において作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出されるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲を画するのは相当とはいえない。そうすると、被告システム1の構成要素の大部分が日本国内にあることを根拠として、直ちに被告システム1が日本国内で生産されていると認めることはできないというべきである。
また、前記(1)ウ(ア)の②-2及び⑤からすれば、被告システム1においては、被告FC2のウェブサーバがユーザ端末に配信するSWFファイルによって規定される条件に基づいて、2つのコメントが重複するか否かを判定する計算式及び重複すると判定された場合の重ならない表示位置の指定が行われており、構成要件1Fの「判定部」及び構成要件1Gの「表示位置制御部」に相当する構成1f及び1gの動作の実現は、日本国内に存在するユーザ端末において行われるものであるということができ、これらのユーザ端末における動作からは、原告が指摘する構成要件1Hに対応する構成1hのうち「前記ユーザ端末のディスプレイには、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画上に、右から左方向に移動する前記コメント1及び前記コメント2とが、追いついて重複しないように表示される、」という部分に相当する動作は、日本国内に存在するユーザ端末において実現されるものということができるものの、構成要件1Hに対応する構成1hのうち「前記サーバが、前記動画ファイルと、前記コメントファイルとを前記ユーザ端末に配信することにより、」という部分に相当する動作は、米国内に存在するコメント配信用サーバ及び動画配信用サーバによって実現されるものであり、構成1hが日本国内に存在するユーザ端末のみによって実現されているとはいえない。前記1(2)イで検討したところからすれば、本件発明1の目的は、単に、構成要件1Fの「判定部」及び構成要件1Gの「表示位置制御部」に相当する構成等を備える端末装置を提供することではなく、ユーザ間において、同じ動画を共有して、コメントを利用しコミュニケーションを図ることができるコメント配信システムを提供することであり、この目的に照らせば、動画の送信(構成要件1C及び1H)並びにコメントの受信及びコメント付与時間を含むコメント情報の送信(構成要件1B、1C及び1H)を行う「サーバ」は、この目的を実現する構成として重要な役割を担うものというべきである。この点からしても、本件発明1に関しては、ユーザ端末のみが日本に存在することをもって、「生産」の対象となる被告システム1の構成要素の大部分が日本国内に存在するものと認めることはできないというべきである。
さらに、前記(1)アのとおり、被告サービスにおいては、日本語が使用可能であり、日本在住のユーザに向けたサービスが提供されていたと考えられ、同オのとおり、平成26年当時、日本法人である被告HPSが、被告FC2の委託を受けて、被告サービスを含む同被告の運営するサービスに関する業務を行っていたという事情は認められるものの、本件全証拠によっても、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月17日以降の時期において、米国法人である被告FC2が本件特許権の侵害の責任を回避するために動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを日本国外に設置し、実質的には日本国内から管理していたといった、結論として著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められない
・・・(略)・・・
(3) 被告HPSによる被告システムの「生産」の有無について
原告は、被告HPSが、実質的に被告FC2と一体であり、被告FC2から委託を受け、その一部門として被告サービスを運営しているものであるから、被告FC2と共同して被告システムを「生産」していると主張するところ、前記(2)のとおり、本件発明1の関係でも、本件発明2の関係でも、被告サービスにおいて、被告FC2による被告システムの日本国内での「生産」は認められないから、被告HPSによる被告システムの日本国内における「生産」についても、認めることができない。
また、被告サービスへの被告HPSの関与の状況は、前記(1)オのとおりであり、そのような状況に照らせば、少なくとも令和元年5月17日以降の時期においては、被告HPSが被告サービスに関する業務を行っていたとは認められず、その他、この点を認めるに足りる証拠はないから、この点でも、被告サービスについて、被告HPSによる被告システムの「生産」は認められないというべきである。』
[コメント]
判決では、故意の侵害逃れの行為、実質的にサーバの管理を日本で行う行為、重要性の低い構成要件を海外で行う行為など、特段の事情についても検討されているものの、「生産」に該当せず、侵害ではないと結論づけている。
サーバを日本国外に設置させることは一般的である。そのため、特許出願時の想定として、処理手順を可能な限り分割し、サーバと端末のいずれでもその処理主体となれるようにクレーム構成が行われる。しかし、日本国外に設置されたサーバでのみ特許性のある処理が行われ、端末ではデータ入力とデータ表示させるためだけである場合には、本件と同様の問題が生じうる。この点は、方法クレーム、プログラムクレームであっても同様である。本件特許権の原出願から派生した分割出願に基づく特許権として、特許第4263218号(コメント配信システム、端末装置、コメント配信方法、プログラム)、特許第4734401号(コメント配信システム、端末装置、コメント配信方法、プログラム)、特許第4799691号(端末装置、端末の表示方法、プログラム、プログラム配信装置)、特許第5665795号(プログラム、サーバ、方法)、特許第6129805号(プログラム、サーバ、方法)、特許第7080382号(プログラム)などが存続している。このことから出願時明細書としては、可能なかぎり広く権利保護ができるように十分な検討の上で作成されていたと推察される。現実的な問題として域外サーバであることを理由に侵害行為が否定されることに対抗するには、簡便には、域外サーバが設置されると予測される国にも出願し権利化しておく方法がある。しかしこの方法は、出願人に過度な出願・権利化コストの負担を強いることとなり、さらに侵害時における域外サーバ特定の問題、域外サーバが設置されている国の法制度の問題と訴訟コストなどもあり、限られた知財予算の出願人・特許権者には採用し難い。一方で、現段階において、この問題に対する有効かつ効果的な解決策を見出すこともまた困難であると考える。

以上
(担当弁理士:丹野 寿典)

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