IP case studies判例研究

平成 26 年(ワ)3119 号 「プレスリリース」事件

名称:「プレスリリース」事件
損害賠償請求事件
大阪地方裁判所:平成 26 年(ワ)3119 号 判決日:平成 27 年 2 月 19 日
判決 : 請求認容(一部)
不正競争防止法 2 条 1 項 14 号
キーワード:注意義務
[概要]
被告による本件プレスリリースの掲載が不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に
該当する、と判断された事案。
[裁判所の判断](筆者にて適宜要約)
(1)本件プレスリリースの記載内容
本件プレスリリースの第2段落において、中韓台LEDチップ及びパッケージメーカーに
よる、特許権を無視した日本市場での行動は目に余るものがあり、日本市場での被告の特許
権への侵害行為に対する対抗措置の一環として、平成23年8月にエバーライト社製白色L
EDを取り扱っていた別会社に対する訴訟を提起した旨とともに、上記別会社が上記白色L
EDが被告特許の権利範囲であることを認めて販売等を中止した旨が記載されており、第1
段落においてエバーライト社が台湾最大のLEDアッセンブリメーカーであると紹介されて
いることを併せ考えると、上記別会社が、中韓台LEDチップ及びパッケージメーカーが被
告の特許権を侵害していることに関わりを有していたと読み取れる。その上で、先行訴訟が
上記別会社に対する訴訟に続くものであり、原告に対しても販売等の中止等を求める旨が記
載されている。このように、見出しの下、第1段落と第2段落を併せ読むと、これらの記載
は、原告を上記別会社と同列に扱った記載となっており、先行訴訟が上記の対抗措置の一環
に含まれるものであり、原告が、エバーライト社製の本件製品を輸入、販売等することによ
り本件特許権を侵害しており、少なくともその点において、中韓台LEDチップ及びパッケ
ージメーカーによる特許権を無視した侵害行為に関わりを有しているということを意味して
いると認められる。特に、第2段落では、上記別会社が、被告の提訴直後、被告の特許権侵
害を認めて販売等を中止したと記載されているため、読む者をして、原告も上記別会社と同
様の侵害行為を行っているものと強く思わせる記載内容となっている。このような記載は、
被告が、原告を相手に訴訟(先行訴訟)を提起したのに伴って、訴訟提起の事実を公表し、
先行訴訟における自らの主張内容や見解を単に説明するという限度を超えており、原告の営
業上の信用を害するものである。
(2)本件プレスリリースに記載された事実が虚偽であるか
ウェブサイトの内容、状況からすれば、原告が取り扱うLED製品を具体的に特定するこ
とはできない。加えて、E&E社が紹介するように、原告がエバーライト社の出資を受けて
設立されたE&E社の主要取引先のひとつであったとしても、原告にとって、エバーライト
社は、半導体製品の仕入先メーカーのひとつであり、原告はエバーライト社の製品の取扱代
理店ではないことを考慮すれば、ウェブサイトの記載を根拠に、原告が具体的な製品として
特定された本件製品を輸入、販売していた事実を認めることはできない。
以上、検討したところによれば、本件プレスリリースに記載された、原告が具体的な製品
として特定された本件製品を輸入、販売し、又は、本件製品の譲渡を申し出ることによって
本件特許権を侵害していることを窺わせる事情は見当たらず、本件プレスリリースに記載さ
れた事実は虚偽であると認められる。
(3)故意・過失の有無
ア プレスリリースにおける注意義務
特許権侵害を理由に提訴した際、提訴の事実を公表するにとどまらず、前記(1)におい
て検討したように、他者の行為が、自己の有する特許権を侵害しているとの内容をウェブサ
イト上に掲載してプレスリリースを行った場合、不特定多数の者が当該プレスリリースを読
むため、他者の営業に重大な損害を与えることが容易に予想される。したがって、そのよう
なプレスリリースを行うに当たっては、あらかじめ、他者の実施行為等について、事実の調
査を尽くし、特許権侵害の有無を法的な観点から検討し、侵害しているとの確証を得た上で、
プレスリリースを行うべき注意義務がある。そして、このような注意義務を怠った場合、損
害賠償責任(不正競争防止法4条)を負うというべきである。
イ 本件プレスリリースにおける被告の注意義務
証拠(乙12の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、被告が、先行訴訟提起前に、本件製
品を実際に入手した上で、本件製品及び本件製品に使用されているLEDチップの構造、構
成材料を分析したことが認められ、あらかじめ、構成要件充足性を検討したと考えられる。
また、原告のウェブサイトに、原告が取り扱う半導体製品のメーカーのひとつとしてエバー
ライト社が掲げられ、同社の白色LED製品を取り扱っているかのように読める記載があり、
同社のトップページへのリンクが貼られ、同社のウェブサイトにおいて本件製品が掲載され
ていた。そのため、被告は、先行訴訟を提起するに当たって、原告のウェブサイトの記載や
取引関係を根拠として原告が本件製品の輸入、譲渡又は譲渡の申出をしていると判断したと
考えられる。しかしながら、前記(2)のとおり、それだけでは、そのような判断をするための
根拠としては不十分というべきである。被告が、原告に問い合わせる、原告に警告書を送付
して回答内容を確認する、原告の取引関係者等の第三者に問い合わせるなどして、原告が取
り扱う具体的な製品を特定するための調査を尽くしたような形跡は窺われない。被告が主張
するように、海外から輸入される白色LED製品を市場で入手するのが困難であったり、流
通経路や国内の輸入元、販売元が不明であることが多かったりしたとしても、上記認定を左
右するものではない。
ウ 被告の過失
上記の事情に鑑みると、被告には、原告の営業に多大な影響を及ぼすおそれのある本件プ
レスリリースをウェブサイト上に掲載するに当たり、原告の権利、利益を侵害することがな
いように尽くすべき注意義務を怠った過失があったものと認められる。また、上記の事情に
鑑みると、仮に、被告が指摘する違法性阻却の抗弁を採用し得ると考えるとしても、被告の
行為が正当な権利行使の範囲内にとどまるとはいえず、違法性は阻却されない。したがって、
被告は、本件プレスリリースの掲載により原告に生じた損害を賠償する義務を負う。
[コメント]
注意義務に関して、「プレスリリースを行うに当たっては、あらかじめ、他者の実施行為等
について、事実の調査を尽くし、特許権侵害の有無を法的な観点から検討し、侵害している
との確証を得た上で、プレスリリースを行うべき注意義務がある。」という判断は参考になる。

平成 26 年(ワ)3119 号 「プレスリリース」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ