IP case studies判例研究
侵害訴訟等
令和2年(ワ)第27972号「ラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置」事件
名称:「ラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置」事件
特許権侵害損害賠償等請求事件
東京地方裁判所:令和2年(ワ)第27972号 判決日:令和5年2月22日
判決:請求棄却
特許法70条
キーワード:用語の解釈
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/871/091871_hanrei.pdf
[概要]
被告製品におけるLSD(拡散フィルム)は、フィルムの表面に微細な凹凸の構造体を有するが、それらが重なり合うことでフィルム全体が拡散レンズとして機能するものであり、それぞれの微細な凹凸を「レンズ部」として把握することは困難であるから、構成要件に該当せず非侵害と判断された事例。
[特許請求の範囲]
【請求項1】
1A:所定方向に並設された複数のLEDと、各LEDの並設方向に延びるように設けられた集光レンズとを備え、各LEDの光が集光レンズを通過して集光レンズから所定の距離だけ離れた位置であって前記LEDの並設方向に撮像範囲の長手を有するように配置されたラインセンサカメラの撮像位置に線状に集光し、これにより前記撮像位置を照明しこれをラインセンサカメラで撮像するように構成されたラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置において、
1B:この照明装置は、前記各LEDから前記集光位置までの光の経路中に光を主に各LEDの並設方向に拡散させる拡散レンズを備えると共に、前記集光レンズの各LED側の面によって受光レンズ部が形成され、
1C:受光レンズ部を、各LED側に凸面状に形成するとともに各LEDの並設方向に延びるように形成し、各LEDにおいて他の照射角度範囲よりも光の照射量を多くした所定の照射角度範囲から照射される光を受光可能に配置し、
1D:前記拡散レンズを複数のレンズ部から形成し、
1E:各レンズ部を、各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成するとともに、光の経路と交差する所定の面上に並ぶように配置し、
1F:前記各レンズ部を、互いに近傍に配置されたレンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異なるように形成したことを特徴とする
1G:ラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置。
[主な争点]
被告製品が特許発明の構成要件に該当するか否か。
[裁判所の判断]
『3 争点①(各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか。)について
(1) 本件各発明の「複数のレンズ部」、「各レンズ部」(構成要件1D、1E等)について
・・・(略)・・・
これらによれば、本件各発明の照明装置の拡散レンズは、複数のレンズ部から形成されていて、各レンズ部の各LEDの並設方向への曲率半径と、各LEDの並設方向と直行(筆者注:「直交」の誤記と理解する)する方向への曲率半径を比較することができるのであり、また、各レンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異なるというというのであるから、本件発明のレンズ部は、拡散レンズにおいて、そこに形成されているという複数のレンズ部のそれぞれのレンズ部について、その位置、形状が特定された上で、それぞれのレンズ部(各レンズ部)についてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握することができるものであると理解するのが自然なものである。
・・・(略)・・・
それぞれのレンズ部については、一方向に異なる曲率を有する複合曲面を有するものも含まれるものの、その場合でも、そのレンズ部が特定された上で、そのレンズ部に求められる機能を考慮し、そのレンズ部についてある方向において曲率半径(RY)を有するものとしている。』
『(2) 各被告製品において使用されているLSD(もっとも、各被告製品に実際に使用されてる各LSDの種類や具体的構成は明らかではない(前記2(2)、(4))。)について検討する。
各被告製品におけるLSDは、拡散レンズの機能を有するフィルム表面の構造体である数十μm程度の微細な凹凸が、シームレスかつランダムに、すなわち継ぎ目なく不規則に配置されたものであり、かつ、凹凸の部分の個々の大きさや形状を規定して作成されているものではなく、統計的に評価してフィルム全体として入射光を所定の角度で拡散する性能を有するように設計されているものである(同(1)~(3))。
すなわち、各被告製品におけるLSDは、フィルムの表面に微細な凹凸の構造体を有し、それらが凸レンズと凹レンズがシームレスかつランダムに配置されたマイクロレンズアレイとして機能し、それぞれの微細な凹凸の構造体によって光がランダムに広げられるが、それらが重なり合うことによって、統計的に評価して、フィルム表面全体が所定の性能を有する拡散レンズとしての機能を有するものである。そして、各被告製品におけるLSDがこのようなものであるところ、そこにおいて、前記(1)のとおりの本件各発明におけるそれぞれの「レンズ部」を把握することは困難なものといえる。』
『原告は、原告の示す各例において、LSDの表面の部分的に突出した複数の部分等はそれぞれレンズとして作用するから、それぞれが1つの「レンズ部」であり、「複数のレンズ部」を備えることを主張する。しかし、前記(1)のとおり、本件各発明の「レンズ部」は、それぞれのレンズ部の位置、形状が特定されるものであって、本件各発明は拡散レンズにそのような「レンズ部」を有するものにより前記1(2)のような効果を奏するといえるものであるところ、原告の示す各例においても、上記のようなそれぞれのレンズ部(各レンズ部)について、その位置、形状を具体的に特定するものではない(前記第2の2(1)(原告の主張)イ、別紙原告の主張する凸部の例)。』
[コメント]
請求項1の構成要件1Dには、単に「複数のレンズ部」と記載されているが、裁判所は、明細書の記載を踏まえ、「レンズ部」を、「その位置、形状が特定された上で、それぞれのレンズ部(各レンズ部)についてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握することができるもの」というように限定的に解釈した。この解釈は、構成要件1E及び1Fの内容に沿った解釈でもあり、妥当なものと考える。
以上
(担当弁理士:佐伯 直人)
令和2年(ワ)第27972号「ラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置」事件
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